実際の不動産査定でも、過去の取引事例から対象物件の価格を査定する「取引事例比較法」が幅広く活用されている。その査定価格と売買取引が成立した成約価格と比較して、不動産鑑定士と呼ばれるエキスパートに、統計的な手法を使って予測したAIが勝てるのか――。そこがAI研究者にとって興味深い研究テーマとなったわけだ。

不動産経済学や統計学などが専門の清水千弘・日本大学教授兼東京大学特任教授によると、当初は人間と機械で正解率はほぼ同じだった。しかし、2000年代に入ってコンピューターの処理能力とデータの大量収集技術が飛躍的に向上し、「ビッグデータ」を使って予測するマシンラーニングやディープラーニングなどの技術が進化して予測精度が大幅に向上した。

アメリカのようにAI査定の普及が進まないワケ

AIの進化を不動産ビジネスに取り入れて成功したのが、アメリカの不動産テックベンチャーだ。2006年設立のZillow(ジロー)が提供する不動産価格推定サービス「Zestimate(ゼスティメイト)」が有名で、アメリカでは2009年頃からAI査定が幅広く活用されようになった。

こうした動きに刺激されて、日本でも同様のシステムを開発する動きが相次いだわけだが、アメリカのようには普及が進んでいないのが現状だ。では、アメリカと日本では何が違ったのか。AIシステムにとって必要不可欠なビッグデータの量と質である。

アメリカでは不動産取引の成約価格などのデータが公開されている。それらのデータをAIシステムに学習させることで、査定価格の精度は向上し、実際の成約価格との乖離幅のデータも公表されている。しかし、日本では成約価格などのデータがほとんど公開されておらず、AIシステムに学習させるためのデータが圧倒的に不足してきた。

実は6年前に記事を書いた当時から不動産データをどうするかは大問題となっていた。日本にも1986年から一部運用を開始した不動産物件登録情報システムのREINS(レインズ)がある。

不動産仲介会社は、売り主と専属専任媒介契約または専任媒介契約を結んだ物件の情報をレインズに登録し、他の仲介会社にも閲覧できるようにすることが義務づけられており、取引成立後に成約価格も登録することになっている。

日本で不動産価格推定システムを開発しようとしていた不動産テックベンチャーは、AIシステムに学習させるためのデータはレインズから取得できると考えていた。しかし、それに待ったをかけたのがレインズの運営団体だ。レインズは既存の不動産流通団体が共同で運営しており、通常の閲覧以外のデータダウンロードを禁止する措置を取った。