当然、義務化に反対の意見もある。極右・国民連合のマリーヌ・ルペン党首は「国民から自由を取り上げ、国家を死に追いやる」などと批判した。

ただ意外なのは、個人の自由をとにかく重視するフランスで、左派、右派、中道問わず義務化を支持する声が多いことだ。

例えば、社会党政権で外相や保健相を務めたベルナール・クシュネル氏(国境なき医師団の創設者の1人)は、政府のワクチン義務化を擁護している。彼は「予防接種は個人的な問題ではない」「それを拒否するのは裏切りだ。法律が必要」「予防接種は公衆衛生維持の必要条件」と述べた。

ほかの国会議員数人からも「予防接種ではすでにフランスで11種類のワクチン接種が義務化されている現状からすれば当然だ」と指摘する声も聞かれる。さらに集中治療室の責任者の医師の一人は「看護師や介護士へのワクチン義務化だけでは不十分」との意見もある。

なお、これらの意見に対して、医療や介護施設で働く人々を取材したフランスメディアのウエスト・フランスは、接種を拒絶している彼ら彼女らの大きな理由は、ワクチンの信頼性の欠如だとしている。短期間すぎるワクチン開発、安全性を科学的に証明するデータの不足の中でワクチン義務化は飛躍しすぎなどという意見もある。

さらに政府に対する不信感で抵抗の意味も込めて接種を拒否している例や、自由への侵害を主張する人もいる。自分なりに徹底した予防策をとっているので十分という考えの介護従事者は意外に多い。今後、接種を拒否し、職場を離れる人が出てくる可能性もある。

健康パスも6割が「よい判断」

では、健康パスの提示義務についてはどうか。8月からパスを提示しなければ飲食店や大規模商業施設などを利用できなくする措置に対して、批判はもちろんある。7月14日の革命記念日には、全国で健康パスに反対する抗議デモが起き、約1万7000人が参加した。革命記念日の祭典でも健康パスがない場合は入場が拒否された。

が、仏日刊紙フィガロのアンケートで政府の決定を「よい判断」と答えた人は61%と半数を超えた。支持者の中には、証明書には抗原検査も含まれており、たとえワクチン接種していなくても、数分で検査結果がわかるので、レストランや映画館に入りたい人は、その場で検査すればいいので問題ないと答えている。

興味深いのは、マクロン大統領がワクチン接種と健康パスの重要性に触れるテレビ演説を行った翌日のワクチン接種専用の予約サイトに約130万件の予約が殺到したことだ。これは1週間前の5倍の予約数。理由はワクチン接種さえすれば、健康パスが手に入り、バカンス先などのレストランやコンサートで開放感に浸れると考える人々が急増したからだ。欧州の人々の何とかバカンスを楽しみたいという思いは強まるばかりだ。

著者:安部 雅延