昨年ごろからベンチャーの資金調達で海外投資家が目立ち始めた。前出のヘイには昨年、米投資ファンドのベインキャピタルが出資。建設施工管理SaaSのアンドパッドには、世界最大手格のベンチャーキャピタル(VC)、米セコイア・キャピタルが出資、同社の日本初のベンチャー投資となった。

国内VC大手、グロービス・キャピタル・パートナーズの湯浅エムレ秀和ディレクターは、「米国だけでなく、香港やシンガポールなど世界の投資家にとって日本のベンチャー市場は未開拓。そんな中で起業家も成熟し、ベンチャーのサイズも大きくなった。われわれのところにも海外の投資家から一緒に投資できないかという話がよく来るようになった」と話す。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドがいよいよ日本へ

そうした中、いよいよ日本のベンチャーに投資するのではないかと期待が高まっているのが、孫正義氏率いるソフトバンクグループが運営する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」だ。運用総額は約14兆円に達する。孫氏は今年5月の決算会見で、「世界に1000社ほどAI分野のユニコーンがあるのに、日本には3社くらいしかない。決定的にAI革命から後れを取っている」と語っていた。

ただビジョンファンドの事情に詳しいあるVC関係者は、「彼らは最近日本での投資に積極姿勢を見せるようになった」と話す。大きな理由の一つが、2つあるビジョンファンドのうち、現在投資を進めている2号ファンド(投資枠は4兆円)で1社当たりの投資金額が小さくなったことがある。「1号ファンドは1社当たり100億円以上だったが、2号では50億円前後が増えている」(同)。

ソフトバンクグループの孫正義社長は、「ビジョンファンド」の2号ファンにおいては1社当たりの投資額を小さくし、その分投資先の数を増やすことでリスク分散していることを強調。いよいよ日本のベンチャーも眼中に入ってきそうだ(記者撮影)

つまり2号ファンドでの投資対象が、米国や中国で評価額が数千億円、あるいは1兆円を超えるような企業だけはなくなったことで、調達額や評価額が比較的小さい日本のベンチャーもビジョンファンドの眼中に入る可能性が出てきたのだ。

実際孫氏も8月の会見で、「2号では大きなユニコーンだけでなく、少し早めのステージ(成長段階)の会社にも分散してたくさん投資している。その分、リスク分散にもなっている」と説明している。

直近では、ビジョンファンドの運営会社であるソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズが、ビジネスSNSの「リンクトイン」上で、日本での投資担当者の募集を始めた。主な職務として、「日本において投資や買収の候補になる企業を調査・推奨する」ことが挙げられている。

これまで欧米の投資家は、アジアの中では、中国やインドのベンチャー企業への投資が多かった。ただ、VC大手・DCMベンチャーズの本多央輔・日本代表は、「特に中国ではバリュエーション(評価額)が高くなりすぎているため、東アジアの中で中国からの資金の流入先として日本が注目されている」と指摘する。

あふれる投資マネーを受け入れるだけの高い成長を実現するベンチャー企業がどれだけ現れるか。日本のベンチャー市場はここからが本当の正念場となりそうだ。

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著者:中川 雅博