つまりビットコイン1枚が50万円から100万円に値上がりした時点で、保有するビットコイン1枚を売却し、そこで得た値上がり益(売却益)50万円が「課税所得その1」。さらにイーサリアム1枚が5万円から10万円に値上がりした時点で、手持ちのイーサリアム20枚を法定通貨に換金して利益を実現させたので、5万円(10万円−5万円)×イーサリアム20枚=100万円が「課税所得その2」となる。

ただ、ビットコインからイーサリアムに乗り換えた際の値上がり益=課税所得その1は法定通貨に換金して手にした現金ではなく、砂上の楼閣の「含み益」にすぎない。値上がりしたイーサリアムを売却して課税所得その2を実現させない限り、課税所得その1に課せられる所得税は納付できない。

ところが、実際の暗号資産価格は2017年12月半ばまで暴騰したあと、2018年1月初旬から大暴落が続いた。このため2017年中に暗号資産同士を乗り換えた投資家には「課税所得その1」が発生する一方、手持ちの暗号資産は巨額の損失(含み損)を抱えていた。これでは暗号資産を法定通貨に交換しても、損失を実現させるだけになってしまう。2018年2〜3月の確定申告で、課税所得その1に課せられる所得税を納めることは到底不可能だった。

そこで“瞬間億り人”と化した暗号資産投資家の大半が、2017年分の確定申告を見送らざるをえなくなった。前出の税理士が説明する。

「彼らの2017年分の納税額は数千万円から数億円に上りましたが、2018年2〜3月の確定申告の時点では、暗号資産価格の暴落が続いており、納税資金が手元に存在していませんでした。暗号資産の億り人たちは、含み益が生じている暗号資産をICO(Initial Coin Offering=暗号資産を新規発行して行われる資金調達)など別の暗号資産に再投資して、納税資金となる法定通貨に換金しないケースが多かった。

ICOには詐欺的性格のものが珍しくなく、手持ちの暗号資産をうっかり乗り換えると、巨額の含み損を抱えてしまう危険性が高い。何とか法定通貨に換金できた場合でも、投資元本すら回収できないことが多いのです」

ICOは株式市場のIPO(Initial Public Offering=新規株式公開)に当たるもので、例えばあるプロジェクトのために、資金調達側が新たに「トークン」(応募者に付与される証券のような性格の暗号資産)を発行。これを投資家に販売して、その対価として受け取るビットコインやイーサリアムなどの主要な暗号資産を法定通貨に換金し、プロジェクトに必要となる資金を調達する。トークンはIPOのように証券会社を通じて購入するのではなく、発行者から直接購入するが、プロジェクトが成功すればその価値も上昇し、投資家の利益も大きくなる。

課税面で株式やFXと同等扱いされず

暗号資産の億り人の納税を難しくしている要因は、実はこれだけではない。暗号資産の利益(課税所得)は申告の際にさまざまな制約を受ける「雑所得」に区分されるうえ、株取引やFX取引のような税率20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の申告分離課税の対象とはならず、ほかの所得と合わせた総合課税扱いされている。

雑所得の元となる雑収入は、著述業や作家以外の人が受け取る原稿料や印税、さらには自身のブログなどに掲載した商品の宣伝が販売につながった場合に報酬を得られるアフィリエイト広告収入や、インターネット・オークションでの売上金などが該当する。早い話が副業収入だ。

だが、そこから必要経費を差し引いた雑所得が赤字になった場合でも、①翌年以降3年間の所得額からの繰越控除が認められない、②他の所得と損益通算できない──といったデメリットがある。国税OB税理士が語る。

「暗号資産の課税所得が事業所得扱いになれば、ほかの所得との損益通算も可能で、しかも青色申告者なら損失を3年先まで繰越計上できます。しかし雑所得ではそうした扱いは認められず、ましてや株式やFXのような例外扱いの対象にもならない。事業用資金で暗号資産を保有していれば事業所得扱いにできますが、これは一般投資家には無縁の話です」