京都を発った列車は日付が変わる頃に和歌山に到着、約1時間20分の停車の間に駅に近い話題のラーメン屋で夜食の提供があり、朝は串本で約2時間停車の間にバスで近場の海岸の景勝地に案内され、漁師料理の朝食がある。

紀伊勝浦駅における平安装束姿でのお出迎え(写真:山井美希)

昼行の復路では始発駅の新宮で昼食、周参見で夕食のいずれも地元食材で盛りだくさんのお弁当がデリバリーされ、間の串本では軽食としてかつおの刺身が供される。これらは旅行代金に含まれている。

このほか往路の紀伊勝浦や新宮、復路の紀伊勝浦、太地、古座、海南駅でもふるまいや物販等が行われるなど、列車を降りて沿線の雰囲気を味わえる趣向が数多く用意されている。

これまでに乗車を体験した人の声を聞くと、まずは数々の座席や設備を備えた車内は1両ごとに異なる玉手箱のような感覚で目に飛び込んできて、旅慣れた人でも今や珍しい長時間の夜行列車に乗るという高揚感を、まして夜行列車体験のない人は日常の列車とまったく異なる世界を存分に味わえる。同行者とラウンジで過ごしていると用意した飲食物もすぐになくなってしまうが、それでも途中停車駅で下車して買い足すことができる。

また、しばらくの乗車で一息ついたり仮眠した後も、停車駅での地元のおもてなし等で再び新たな楽しみが用意されており、飽きることなく過ごせたーーといった感想が伝えられた。

ワンクリックの世代に高すぎる申し込みのハードル

その一方、実際の乗客は自席で過ごす1人旅の男性旅行者がほとんどであり、少ないグループ客はラウンジ等でゆっくり楽しめるものの、当初の狙いである若者や女性層をあまり取り込めていなさそうな点が気にかかると言う。

その理由の一つには、乗車までのハードルが非常に高いことが考えられる。現下の状況から旅行商品としてのみの販売という点は致し方ないが、LCCや高速バスが常用手段である若年層には負担となる額のうえ、特定の旅行会社の専用サイトから申し込まなければならない。現状では申し込んだ後に抽選の結果発表を待ち、運よく当選した後も食事のチョイスに、場合によっては宿泊先の再調整などもある。そして最後に、乗車クーポンが郵送されてくるのを待つ。

スマートフォンを使った簡単な操作でクレジット決済まで完了し、画面のQRコードで乗車することを当然とする世代に、実質的に紙のパンフレットと何ら変わらないものを読み込むことから始まる煩わしさは、いかばかりか。“インスタ映え”する写真から一発で申し込みサイトに飛んで行けて、複雑な手続きを踏むこともなく商品を入手できることが、当初の狙いどおりに彼らを誘い込むための必須の手段であろうし、現状の最大の課題と感じられる。

今後、コロナ禍が終息して多くの旅行者が乗るようになった時、「紀ノ国トレイナート」を理想に掲げた、ラウンジでお互いの交流が生まれるような列車の姿が期待される。

著者:鉄道ジャーナル編集部