3つ目の盲点は、「早期退職して幸せなのか」という点です。何に幸せを感じるかは人それぞれですが、FIREが「必ずしも幸せにつながらない現実」を直視する必要があります。

松園亮さん(仮名、独身)は、父の遺産が入ったことと勤務先が上場して保有自社株が高騰したことで、1億円近い資産を手にしました。元々人付き合いが苦手だった松園さんは、職場の人間関係が悪化したことで会社勤めに嫌気がさし、38歳の時に思い切って会社を退職します。

四国に移住し、小さな農場を借りて、晴耕雨読の生活を始めました。しかし2年経った今、東京に戻るべきか悩んでいます。

「会社勤めをしていた時は、風光明媚な田舎でのんびり農作業する生活に憧れていました。しかし実際に来てみると、3カ月くらいで飽きました。いくら人付き合いが嫌いな私でも、1日中誰とも会話しないというのは、ちょっと耐えられません。東京に戻ってアルバイトでもして社会との繋がりを取り戻そうかと思案中です」

何かやりたいことがあるなら早期退職は幸せでしょう。しかし、松園さんのように「会社勤めが嫌だから」といった後ろ向きな理由で退職すると、「苦痛な会社を辞めて、もっと苦痛な生活が待っていた」という笑えない事態に陥ります。

FIREは目指さないほうがいいのか?

ここまで読んで、「日沖という書き手は、FIREにずいぶんと批判的だな」と思われたかもしれません。しかし、まったく逆で、私はFIREに大賛成です。会社員の皆さんには、ぜひFIREに挑戦してほしいところです。

今後、日本の会社員は賃金がなかなか上がらず、会社の経営が傾くと容赦なくリストラされます。公的年金は、財政難から支給開始年齢が70歳、75歳、80歳と繰り下げられ、支給額も削減される可能性も高いでしょう。

会社も国も頼れない状況で貧乏生活をしたくなかったら、早期退職するかどうかは別にして、若い頃から経済的自立に向けて資産運用を学んでおくことは損ではありません。

また、自分がやりたいことをやる(=やりたくないことをやらない)のが幸福な状態だとすれば、FIREの目標を立て、努力することで、人は幸福に近づけます。

いま多くの会社員は、幸福について考えることを避けています。たとえば「音楽の演奏活動に打ち込みたい」と願っても、会社勤務をしていては実現できないので、「できないことを考えても仕方ない」となります。そうすると、FIREに向けて資産運用などに真剣に取り組まないので、いつまで経っても夢は夢のままです。

ここで、「40歳までに1億円の資産を作ってFIREし、演奏活動に打ち込む」と目標を立てたら、目標に向かって懸命に努力するので、達成の確率が高まります(あくまで確率が上がるだけで、絶対ではありませんが)。もちろん、会社の仕事が面白いなら、リタイアせず好きな仕事を続けるというのも幸福な状態です。

20代・30代の若手ビジネスパーソンには、ぜひFIREの目標を立て、3つの盲点にくじけず着実に努力を続け、幸福を掴んでほしいものです。

著者:日沖 健