ここ数年続く米中経済対立は、アメリカの産業政策を転換させた。政府介入を減らし市場に任せるという経済政策の考え方の後退が世界的にも見られる。『ネットニュースではわからない本当の日本経済入門』で、経済ニュースと関連する経済理論を講義し、時代ごとに政策の理論的支柱となってきた経済学説の興亡を解説した伊藤元重教授が、グローバル経済の流れを読み解く。

産業政策の世界的な盛り上がり

若い読者は「産業政策」とは何か、知っているだろうか。それは産業や企業の活動に政府がテコ入れして、競争力を高めようとする政策のことだ。

政策手段としては補助金による支援や関税などによる保護などがある。そうした手段は「あまり好ましくないもの」というイメージで教えられてきた、という人も多いかもしれない。

実際、経済政策の論議に財政政策、金融政策、競争政策などはしばしば登場するが、産業政策という用語が出てくることは少ない。

かつて1960年代から1970年代にかけて、日本の産業政策は世界から注目を浴びた。通商産業省(現在の経済産業省)が、日本の重化学工業化、自動車産業や半導体産業の育成に積極的に動いた。

だが、1990年代以降、政府が産業や企業活動に関与することは一般的に好ましくないという考え方が強くなる中で、産業政策が前向きに語られることは少なくなってきた。産業政策の担い手であった経産省も、規制緩和によって政府の関与を減らしていく政策運営に変化していった。

しかし、興味深いことに、ここに来て産業政策が世界的に盛り上がりを見せている。

中国は、習近平指導部が掲げる産業政策「中国製造2025」によって、次世代情報通信や新エネルギーなどの技術を向上させ、先端分野の製造業を強力に支援しようとしている。これは中国が国家主導型の経済体制なのでうなずける。

その中国に刺激された面もあるだろうが、アメリカでもバイデン政権の下で、半導体や電気自動車など、先端分野での産業競争力を高めるような膨大な財政支出が行われようとしている。