米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

アフガニスタンにおける困難を経験したイギリス

2010年から始まったイギリスBBC制作の人気テレビドラマ、「シャーロック」では、現在のロンドンを舞台として、名優ベネディクト・カンバーバッチが演じる探偵シャーロック・ホームズが、次々と奇怪な事件の謎解きを進めてく。そのシャーロックの相棒で陸軍軍医であるジョン・ワトソンは、マーティン・フリーマンがまさに適役ともいえる優れた演技でワトソン博士になりきっている。

このドラマの中で、ワトソンは軍医として2001年に始まるアフガニスタン戦争に従軍している。そこでの壮絶な戦闘経験によって戦傷を負い、本国に送還されて、トラウマを抱えているところから物語が始まる。

コナン・ドイル原作のもととなる小説の中では、この陸軍軍医のワトソンは1878年の第2次アフガニスタン戦争に従軍したことになっている。1世紀を超える時を隔てて、イギリスははるか遠方のアフガニスタンに陸軍兵力を送り、「アフガニスタン戦争」を戦った。いずれの戦争においても激しい戦闘、そして次々に襲いかかる想定外の困難と、戦闘での勝利とそれに続く兵力駐留の限界、そして屈辱的な撤兵を経験した。イギリス史の中で「アフガニスタン」とは、苦難と挫折を象徴するものとして記憶されている。

「帝国の墓場」ともいわれるアフガニスタンでの戦争。2021年8月のアメリカ軍のカブールからの撤兵は、1975年のベトナム戦争後のサイゴン陥落や、1989年のソ連軍の撤兵と比較されることが多い。他方で2001年に始まるアフガニスタン戦争はあくまでもNATOによる戦争であり、またISAFとしての占領である。

それゆえ、そこにはイギリス軍なども加わっており、今回のカブールからの撤退はイギリス軍にとっても特別な苦悩と挫折を経験する結果となった。ベトナム戦争のアナロジーではあくまでもアメリカ軍の撤退のみにフォーカスされてしまう。だが、今回の挫折はアフガニスタン復興を支援した国際社会の挫折でもあり、日本もこの問題を主体的に考えることが不可欠だ。