JR東海のスタートはJR東日本よりも遅れたものの、本格導入という点では先んじた。では、JR東日本が6〜7月に実施した取り組みとは何が違うのか。

JR東日本が試行した新幹線オフィス。折りたたみ式の衝立は検証のみで乗客への貸し出しはしなかった(撮影:尾形文繁)

JR東日本は、速達タイプの「はやぶさ」の全列車の1号車をビジネス車両として、無料で利用できるようにした。今年2月の実証実験で利用者から「前の席の背もたれに付いているテーブルが小さくて使いづらい」「パソコンの画面を隣の人にのぞき見されるリスクもある」などの意見が出たことを踏まえ、A3サイズの紙を横向きに置けるタブレットテーブルや座席の肘掛けに取り付ける折りたたみ式の衝立を導入した。ただ、乗客には貸し出さず、同社社員による使い心地の検証にとどまった。JR東海は、この動きを先取りして衝立を乗客に貸し出すことにした。

なお、はやぶさのビジネス車両の客室内ではスピーカーから人混みの雑踏のような音が絶えず流れていた。雑踏の音のような「情報マスキング音」には、オンライン会議や携帯電話の会話漏れの軽減のほか、仕事に集中できる効果もあるというが、JR東海は導入を見送った。

駅を含めたシームレスな利用という点では、現在整備を急ぐJR東海に対して、JR東日本は個人型シェアブースやホテルの一室を活用できる「STATION WORK」をすでに展開中。7月には東京駅構内に応接室も備えたワンランク上のシェアオフィスも開設した。この点ではJR東日本のほうが充実していたといえる。

「自席で仕事」か「専用車に移動」か

いくつか比較したが、両者の最大の違いはJR東日本方式では別の号車の指定席客が1号車に移動して、空いている席に座って仕事をするということだ。JR東海の場合、のぞみの7号車は追加料金は得られないにせよ、運賃や指定席特急料金は得られる。一方で、はやぶさの1号車は旅客収入を生まない車両ということになる。

JR東日本の新幹線オフィスは利用者が専用車両に移動、JR東海(写真)は自席で仕事をする方式だ(記者撮影)

JR東日本は将来の本格実施に向けて、実証実験の利用者に追加料金に関するアンケート調査を行っている。JR東海が無料を打ち出しているだけに、もし追加料金が必要だとしたら、その金額に見合う付加価値がどのくらいあるかが利用者にとっては重要なポイントとなる。

JR東日本は2030年度末の北海道新幹線札幌延伸を見据えた高速運転試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」による走行試験も行っている。東京―新大阪間の2時間半程度なら自席から移動せず仕事ができたとしても、東京―札幌間という長時間であれば、くつろぐ場所である自席と仕事をする1号車を分けたほうがいいという考え方も成り立つ。今回の実証実験で得られた知見は将来の営業車両の開発に生かされるはずだ。

緊急事態宣言も9月末に解除され、人の移動も少しずつ始まった。JR東日本やJR東海の取り組みが普及して新幹線での移動中に仕事をすることが一般化すれば、プライベートの時間を増やすことができる。もしそうなれば、それはコロナ禍が生んだ数少ないプラス効果といえるかもしれない。

著者:大坂 直樹