COP26を前に各国のNDCの提出状況を取りまとめた国連の報告書によると、7月30日までに削減目標を引き上げたり、新たに提出した国は113カ国。これらの国々は世界の温室効果ガス排出総量の約50%を占めており、2030年までに2010年比で12%の削減が公約されている。これは排出削減に向けての貴重な第一歩ではあるが、実は削減目標を引き上げていない国々も多い。それらの国を含めたすべての国のNDCを合算すると、2030年までに排出量が16%も増えてしまうという。

「1.5度目標」の達成には、2030年までに2010年比で45%程度の削減が必要であることから、現在のままでは目標から遠く離れている。このままでは平均気温が産業革命以前と比べて2.7度も上昇してしまうと、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は指摘している。

なぜ削減目標を足し合わせても、パリ協定が目指す姿とはかけ離れているのか。

もともと途上国のNDCは、開発が進んで大きく排出が増えるところを、努力してなるべく排出増を小さくする“排出低増加目標”の形が多い。しかもこれらは、先進国からの「資金と技術支援」を条件にしているところが多い。すなわちパリ協定で定められている資金援助と技術支援の実効性を伴うことが、排出量削減の成否を左右する。

しかし、これまでに2020年には途上国支援に関して先進国が年間1000億ドルの資金を振り向けることが決まっているにもかかわらず、OECD(経済協力開発機構)の報告では直近時点で796億ドルにとどまっている。

さらに2025年まで、先進国が年間1000億ドルの資金を振り向けることも取り決められているため、先進国がきちんと約束を果たすこともCOP26に課せられたアジェンダである。日本には資金面でも大きな貢献が求められている。

残された課題「パリ協定6条」問題

これまでの会合で積み残されてきた課題の解決も迫られている。パリ協定にもとづくルールの詳細はそのほとんどが決定しているが、「市場メカニズム」(協定第6条)や、削減を実施する期間の長さ、温室効果ガス排出量を算定・報告・検証するための詳細なルール作りなど、いくつかの課題が残されている。中でも重要なのが、過去の数次にわたる会合で決着できないままになっているパリ協定第6条に関するルールの取り決めだ。

パリ協定第6条とは、CO2の排出枠を「クレジット」として市場で取引する仕組みが主で、2国間で取引するもの(6条2項)と、国連主導型で取引するもの(6条4項)の2つがある。日本が途上国との間で進めている2国間クレジット制度(日本と対象国の2国間で削減プロジェクトを実施し、CO2削減量を2国間で分け合う制度)もこの中に含まれることになるため、日本としてもぜひ合意にこぎ着けたいところである。

しかし課題は多い。日本国内では、排出量を全国規模で取引する制度が存在しない。そのため、「炭素の価格」(炭素排出に伴うコストの相場)がいまだに存在しない。

パリ協定のルールがすべて定められたあかつきには、国際的にも共通の排出枠の取引市場が整うことになる。その際、日本国内に排出枠を取引できる仕組みがなければ、新たに生まれる世界的な排出枠取引において後れを取ることは必定だ。

菅義偉前首相は、2050年のカーボンニュートラル(脱炭素化)、そして2030年の温室効果ガス46%削減、さらに50%の高みを目指すというこれまでになく踏み込んだ目標を打ち出し、環境後進国のレッテルを貼られた日本を排出削減競争のスタートラインに立たせた。一方でどのように削減目標を達成するかについては、今ひとつ踏み込めないままであった。

岸田新政権には、日本が真に2050年に脱炭素化、その途上として2030年に少なくとも46%削減を確実にする具体的な国内政策の実施を期待したい。まずはCOP26に首相が参加して、世界のリーダーたちの脱炭素化へ向ける熱意を肌身で感じてもらい、産業界の国際競争力の源泉となる国内の温暖化対策の実施に向けて尽力してほしい。

脱炭素化へ向けて実効性のあるエネルギー計画、そして長年の懸案である排出量取引制度や炭素税などカーボンプライシング導入・強化をはかることが急務だ。そのことこそ、パリ協定が実行に移される時代において、日本の産業界が世界の投資家から評価を受けることにつながり、日本企業の成長の後押しになる。日本の新首相のリーダーシップが問われている

著者:小西 雅子