これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむが神髄を紡ぐ連載の第98回。

山本周五郎賞と直木賞をW受賞

佐藤究さん(44)は東京在住の小説家だ。

今年2月に上梓した『テスカトリポカ』(KADOKAWA)は、第34回山本周五郎賞、第165回直木三十五賞と2つの大きな賞を受賞して話題になった。

『テスカトリポカ』は、麻薬密売と臓器売買という目を覆いたくなるような残酷な現実と、恐ろしいアステカの神話が交錯する暗黒小説だ。随所に、読んでいるだけで脳が焼きつきそうな、鮮烈な暴力表現があるのが特徴だった。

とにかく面白くて、ボリュームのある本なのに気がついたら徹夜で読み終えてしまった。

佐藤さんはどのような人生を歩み、骨太なロマンノワールを書きあげたのか?

KADOKAWA本社の会議室でお話を聞いた。

佐藤さんは福岡県福岡市の南区に生まれた。

「ちょっと裕福な人たちが家を建てているような地域に生まれました。ただしうちは木造アパートでお金がなかったですけど。父親はペンキ屋で小学校の頃からちょくちょく手伝っていました」

佐藤さんのお父さんは生まれこそ東京の人だったが、長年、福岡に住む間にすっかり九州男児になっていた。大学時代は重量挙げの大学選手権チャンピオンになるような、力強い父親だった。

「大胸筋が動く親父ですから、普通の反抗期では通じないわけです。フィジカルが違う。小さい頃は親父中心の世界で嫌だったんですけど、全日本プロレス中継を見ると、親父よりヤバそうなのがボンボン出てて、それで世界が広がったという感じがありました」

佐藤さんは自然とプロレスラーになりたいと思うようになったという。

その頃は小説家には憧れていなかったのだろうか?

「僕が子供の頃は、今に比べたら情報を得づらい時代でした。風のうわさで、

『ヤコペッティ監督の作品はヤバいらしい』

という情報は入ってきたのですが、小学生の僕にヤコペッティ監督の作品を観るすべはありませんでした」

グァルティエロ・ヤコペッティはイタリアの映画監督で、『世界残酷物語』や『ヤコペッティの残酷大陸』など猟奇的なドキュメンタリー風作品を作っていた。