ウイグルをはじめとする苛烈な「民族弾圧」から香港、台湾へと広がる世界的危機。中国共産党・習近平はいったい何を目指しているのか。その中国リスクを読み解く『中国共産党帝国とウイグル』の著者・橋爪大三郎氏と、社会学者の大澤真幸氏が、中国の文明・哲学的背景を踏まえつつ、習近平体制の本質と「特色的」な政治的資本主義に切り込む。「資本主義と民主主義はセットだ」という欧米の常識を超えた中国式の国家資本主義をどう考えるべきか?

すべては文明的背景の中で理解せよ

大澤:中国に関しては、橋爪さんは私の先生なので、いつも教えていただくばかりなのですが、今回の『中国共産党帝国とウイグル』を読んでつくづく実感したのは、今起きていることであっても、文明的な背景を理解しないと物事の本質やこれからの方針は見えてこないということです。

ただ、アメリカも、中国も、イスラームも、その文明的背景が現在にいろいろな屈折があって表れるので、そこをどう理解するかが難しいと思いました。

例えば、この本の中で橋爪さんが最初に提起されている、ウイグルでイスラーム教徒がひどい目に遭っているのに、なぜ世界中のイスラーム教徒は連帯してこれに抗議しないのかという問題提起。この問題も、文明的な無意識が関わっていると思う。

イスラームは、現代のグローバル資本主義にうまく適応できていない。イスラームを強く押し出しているようで、じつはイスラーム性はうまく発揮されていない。だからイスラームを根拠に連帯できないのです。

それと対照的なのは、ヨーロッパやアメリカの西側世界です。彼らは中国批判に「人権」という世俗的な価値観を出してくる。でも実は、橋爪さんも指摘しているように、それはキリスト教由来の概念でもあるわけです。ですから、一見現代的で世俗的に見えることでも、近代よりはるか前からある宗教的な意識が強烈に利いていて、これを理解しないと、本当のところはわからない。

中国の場合は、その中間だと思うんです。中国共産党の支配を理解するには、大陸における中国の帝国としての歴史を理解しないといけない。そこに、近代的なナショナリズムやマルクス・レーニン主義といった、明らかに歴史の短いものが不思議な形でブレンドされている。

イスラームの場合は、伝統的な価値観が近代とうまくつながらなくてぎくしゃくしているけれど、中国の場合は、なぜかそれがうまくかみ合ってしまった。そういう印象を持ちました。

橋爪:歴史の堆積の中で今の中国を理解していく。おっしゃるとおり、これは非常に重要な思考作業です。『世界史の哲学』には、古代も、中世も、近世・近代も、中国が繰り返し出てくる。そのあたりをうかがいたい。