非常用ドアコックは工場での点検の際や、駅での車内清掃などの際に使用することが多い。いずれも係員による操作で、通常は乗客が触ることはない。

もともと鉄道車両のドアは鉄道開業以来手動式だった。大正時代に誕生した電車も手動式だったが、昭和の初めに自動ドアの電車が登場した。ただ、運転台にドア開閉装置があるため、車両基地などで検査や清掃を行う際に、いちいち運転台からドアの開閉を行わなくてはならない。その手間を省くことなどもあり、各車両にドアコックが設置された。当然、係員が操作することが前提のため、どの位置にあるかの表示は行わなかった。

しかし、これが大惨事を招いてしまった。1951年に起きた車両火災による桜木町事故では、ドアの開閉方法がわからず、106名の死者を出してしまった。これ以降、非常用ドアコックの位置を車内に明示するようになったが、今度は1962年にドアを開けて線路に降りたために大惨事が起きてしまった。

いわゆる三河島事故で、同じ方向に向かう下りの貨物列車と電車が衝突し脱線。乗客は桜木町事故の教訓から非常用ドアコックで外に出て、上り線を歩いて避難を開始したが、そこに上り電車が進入。急ブレーキをかけたが間に合わず、歩く人を次々とはねながら脱線した電車と衝突した。このときの死者は160名にも及んだ。

非常用ドアコックの使用は状況によっては悪化することもある。ということも覚えておく必要がある。

走行中の非常用ドアコック使用は?

走行中に非常用ドアコックを使用することがあるのか。

ホームドアに設置された非常ボタン(筆者撮影)

これも状況次第となる。例えば、利用者がドアに手を挟まれ、引きずられて動いてしまった場合には、まずはSOSボタンを押して列車を緊急停車させ、非常用ドアコックを使ってドアを開けて人の手を外すのが、有効な手段のようだ。実際、電車のドアに挟まり、引きずられてホームから転落死した事故が起きている。もしそのような事態を目撃したら、迷わずSOSボタンを押してから非常用ドアコックで救出するのが最良と思われる。

ただ、今はホームドアが設置された駅が増えており、ホームドアが開いていれば発車しないので、引きずられることはまずないだろう。最悪の場合は、ホームドアに備えられている非常ボタン(ホームドア非常開ボタン)を押すのがよい(ホームドアにある非常ボタンの設置個所は、駅によって異なる)。