ただ、「世界最短の国際列車」が未来永劫残る予定かといえばそうではない。両国間には、全長4kmの高速輸送システム(RTS)と呼ばれる鉄道新線の建設が進んでおり、2026年ごろの完成を目指している。RTSができると、在来線にあたるウッドランズ駅への鉄道は廃止される見込みだ。国境を行き来する通勤客らにとっては、地下鉄や近郊電車のような利便性の高い交通機関の開業によって大幅な時間短縮が見込める。

廃止前のタンジョン・パガー駅舎内(筆者撮影)

しかし、現在の鉄道がなくなると、世界最短の国際列車がこの地から消えること以上に、名物列車の運行もなくなってしまうことになる。

1993年から、シンガポール―マレーシア―タイ(バンコク)間には、「イースタン・オリエンタル・エクスプレス」(E&O)という豪華列車が運行されている。シンガポール区間についても、いまだにウッドランズ駅に乗り入れることで、3カ国走破の体裁を崩さずにいる。

E&Oは、欧州で伝統的名列車として知られる「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」を再興したベルモンド(Belmond)社が運行を手掛けている。2021年こそコロナ禍の影響で運行できなかったが、2022年はシンガポール(ウッドランズ)発着日として、9月17日出発・26日帰着、28日出発という予定ですでに集客も始まっている。いずれも、マレーシアとの国境である堤防を通過してジョホール・バルに入り、その後マレー半島西側のクアラルンプールなどを経てタイへ入国、ハジャイからバンコクを目指す、というルートとなっている。

高速鉄道計画は消えたが…

一方、マレーシア・クアラルンプール―シンガポール間には、最短99分で結ぶ高速鉄道計画も存在していた。

同区間は世界最多の国際線便数が飛ぶほどに人々の行き来が激しいルートで、高速列車計画は注目を集めていた。しかし、2018年5月にマハティール氏が首相に返り咲くやいなや、コストの見直しを理由に着工がストップ。その後、何度も計画再開の動きはあったものの、結局2021年1月1日をもって建設計画は断念することとなった。

もし実現していれば、ジョホール・バル西方にある新開発地域のイスカンダル・プテリ駅とシンガポールの都心とが数分で結ばれる可能性があっただけに、計画消滅は残念という声が地元では根強い。

シンガポールとジョホール・バルとの間は、国境があるとはいえ、コロナ禍前には平均して1日30万人の出入りがあったとされる。長期間の制限を経てようやく両国間の出入りが許可されることになったわけだが、当面の通過可能人数は1日当たり1400人にとどまり、完全復活への道のりはまっだ遠い。鉄道もしばらくは線路工事で運休が続くため、「世界最短の国際列車」に旅行者が乗れるのはまだ先のことになりそうだ。

著者:さかい もとみ