長期間日本の外交戦略をリードしてきた安倍氏の発言だけに、中国側は直ちに「強烈な不満と断固たる反対」を表明。華春瑩外務次官補が同夜、垂秀夫駐中国大使を呼び出し、「中国の内政に乱暴に干渉した」などと抗議したうえで、「(日本が誤った道を進めば)必ず火遊びで焼け死ぬだろう」と激しい言葉で非難した。

これに対し、抗議を受けた垂大使は「日本国内にこうした考え方があることは、中国として理解をする必要がある。中国側の一方的な主張については受け入れられない」と反論。松野博一官房長官も2日の記者会見で「(日本政府の)立場に基づく然るべき反論をした」と説明した。

林氏の鞍替えに不満たらたら

ただ、この安倍発言には伏線があった。11月10日発足の第2次岸田政権の外相に林芳正氏が就任したことへの安倍氏の不満だ。林氏は岸田派のナンバー2として今回衆院選で参院議員を辞職し、衆院山口3区から出馬して当選したばかりだが、「安倍氏にとって、地元山口で親の代からの“天敵”」(関係者)だからだ。

衆院鞍替えを強行した林氏は、早くも「ポスト岸田」で総理総裁を目指す考えを明言している。これに対し安倍氏は「党の反対を押し切って強引に鞍替えした人が、いきなりポストを得るのはおかしい。しかも、日中友好議連会長の林氏(すでに辞任を表明)の外相起用は中国に誤ったメッセ―ジとなる」と不満たらたらだったとされる。

当然、安倍氏の怒りの矛先は岸田首相に向かった。しかし、岸田首相は丁寧に時間をかけて手順を踏んでみせただけで、「結果的には安倍氏の不満をスルーする形」(官邸筋)で林氏の外相起用を貫いた。

安倍氏らの支援で自民党総裁選を勝ち抜いたのが岸田首相だ。ただ、その後の党・内閣人事でも安倍氏が強く求めた「高市早苗幹事長・萩生田光一官房長官」ははねつけた。当時の細田派内に、この安倍氏の要求に異論があったことを理由としているが、「安倍氏と距離を置くことで、政権運営の主導権を握る狙い」(官邸筋)だったことは間違いない。

岸田政権発足からすでに2カ月が過ぎたが、キングメーカー然として振る舞う安倍氏に抵抗してみせることが、内閣支持率の上昇につながっているのは事実だ。「その成功体験が本格政権に向けた政局運営の自信につながっている」(官邸筋)とみられている。