中国が検討しているのは、中国人民銀行(中央銀行)が銀行等にデジタル通貨を発行し、人々は銀行等からそれを受け取るという間接方式(2段階方式)だ。ブロックチェーンは使わず、中央集権的な発行が想定されている。

匿名性に関しては「管理された匿名性」を付与するとの説明だが、売買に伴う資金については「売り手」には「買い手」の情報が共有されないが、中国人民銀行はすべての情報を把握する可能性がある。すでに複数の都市で実証実験を行っており、北京冬季五輪でより大規模な展開が見込まれる。拙速を避けるべく、完全導入のタイミングの明示は避けつつも着実に準備を進めている。

これに対してアメリカは、研究は進めることとなったが、必ずしもCBDC導入が前提ではない。FRB内にもウォーラー理事など、CBDC導入に否定的な意見は根強い。日本もCBDC導入ありきではないが、検討は進めるということで概念実証を実施中であり、その結果を踏まえつつ、パイロット実験を行うことが見込まれている。

通貨覇権と経済安保

基軸通貨となるには、強い経済力・軍事力に加え、取引の規制が少なく世界の企業や政府がその通貨を保有したいと考えることが重要だ。しかし、人民元にはまだ多くの資本規制が残る。加えて、基軸通貨には強い慣性が働く。経済力、軍事力を高める中国だが、現時点でドル覇権が危機というのは言いすぎだろう。

中国自身も、現在、基軸通貨の地位をドルから奪うことは考えていないと思われる。しかし、中国は、自国が関係する国際取引でのドルの支配的状況を脱したいとは考えている。これは、基軸通貨となり巨額の通貨発行益を得たり、為替リスクを気にせずに経常収支赤字をファイナンスできる「法外な特権」(Exorbitant Privilege)を獲得したりしたいからではないだろう。むしろ、貿易・金融におけるドル依存の状況が、アメリカの金融制裁等に脆弱であることへの警戒という「経済安保」的動機が大きいと思われる。

デジタル人民元自体は、当初は国内取引が念頭にあり、広がりを見せるとしても、まずは「一帯一路」対象国との貿易決済からだろう。ロシアも近年、外貨準備に占めるドルの比率を低下させるなど、アメリカの金融制裁を警戒する国は、通貨選択の際に経済安保も考慮する。加えて、SWIFTのメッセージを使った送金など現在のレガシーシステムがコストやスピードの点で必ずしも利用者の期待に応えていない状況を考えれば、中国のCBDC導入が「現状維持」の慣性を揺さぶる可能性はある。