中国の工業化に対処するため、日本は「安売り戦略」を志向し、円を著しく減価させた。その結果、輸出は増えたが、貿易収支は悪化した。また、賃金も上昇せず、企業も成長しなかった。

昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第60回。

韓国や台湾は、通貨を増価させた結果、貿易黒字が拡大した。それにより、経済成長率が高まり、賃金が上昇した。また、企業が成長した。

中国工業化への対応:「安売り」か、「差別化」か

いま、韓国や台湾の賃金や1人あたりGDPが、日本に近づき、あるいは日本を追い越そうとしている。20年以上にわたる日本経済の停滞と、韓国・台湾の顕著な経済成長が、この結果をもたらすことになった。

なぜこうしたことが生じたのだろうか?

それは中国の工業化への対処の違いによると考えられる。

1980年頃から始まった中国の工業化が、1990年代に本格化した。安い労働力を使って、それまで先進国の製造業が作っていた製品を、はるかに安い価格で作り、輸出を増大させた。

これによって、先進国の製造業は極めて大きな打撃を受けた。

中国の工業化に対応するのに、2つの方策がある。

第1は、輸出品の価格を切り下げて、中国の低価格製品に対抗することだ。これを「安売り戦略」と呼ぶことにしよう。

第2は、中国が作れないもの、あるいは中国製品より品質が高いものを輸出することだ。これを「差別化戦略」と呼ぼう。

日本は安売り戦略

日本は2000年頃以降、「安売り戦略」をとった。

国内の賃金を円ベースで固定し、かつ円安にする。これによって、ドル表示での輸出価格を低下させて、輸出を増大させようとした。