もちろん、ここNYでも、それだけインフレは庶民の生活の隅々にまで浸透してきているということなのだろう。サプライチェーンの混乱の影響も依然として残っており、スーパーマーケットに行っても値上がりが目立つだけではなく、陳列棚には微妙に隙間が多い。「棚がスカスカ」というほどにモノがなくなっているという感じではないが、売れ筋の商品などは補充が追いついておらず、売り切れ状態が長く続いている商品も多い。こうしたモノ不足と物価の上昇は、一体どこまで続くのであろうか。

最近でいえば、4月12日に発表された3月のCPI(消費者物価指数)が記憶に新しいところだ。3月のCPIは前月比で1.2%とほぼ予想どおりながら、2005年9月以来の1%超え。前年比でも8.6%上昇と、1981年12月以来の高い伸びを記録している。

一方で、変動の激しいエネルギーと食品を除いたコア指数は前月比0.3%上昇と、予想を下回る伸びにとどまっている。市場ではこれを手掛かりに「インフレはすでにピークアウトした」との見方が一部浮上している。実際、発表後はアメリカの長期金利が低下、株式市場には買いが集まった。

だが、そうした見方は「時期尚早で、楽観的すぎる」と言わざるをえない。コア指数は前年比では6.4%の上昇と、前月と同じ水準を維持しているし、翌4月13日に発表された生産者物価指数(PPI)は前月比で1.4%、前年比で11.2%上昇と、共に2009年に算出方法を変更して以降の過去最高を更新している。PPIはコア指数も過去最高の伸びとなっている。

つまり、今後インフレ圧力が後退する兆候は、CPIコアの先月比以外には、ほとんど見られていないのが実際のところだ。

一方で、昨年4月から6月にかけて、CPIの総合指数、コア指数双方に上昇圧力が急速に強まっていたことには注意が必要だろう。今後数カ月間は、昨年対比ということもあって、一見、前年比での伸びが鈍化する可能性が高い。

なんとしてでもインフレがピークアウトしたとの理由を見つけたい市場が、これに大きく反応することも十分にありうる。もちろん、前月比での数字を見るべきで、それが高い伸びを維持するなら、やはりインフレ圧力が後退すると考えるべきではない。

インフレ懸念が後退するための条件とは何か

やはり、ここまでの物価上昇の大きな要因となってきた、サプライチェーンの混乱や消費価格の高騰が依然として続いていることの影響は無視できない。「ゼロコロナ政策」を頑なに維持する中国の流通混乱は依然、サプライチェーンの正常化を妨げている。

また、原油先物価格にしても、アメリカ政府が大規模な戦略備蓄の放出を打ち出したことなどでやや価格調整が進んでいるとはいっても、ウクライナ戦争の長期化が予想される状況下、小麦やコーンなどの食料価格もまだ上昇余地は消えていない。

足元のインフレは、こうした供給不足の問題が大きい。そうした状況下では、商品価格の上昇が生産者物価指数に跳ね返り、それが消費者物価指数を押し上げ、最終的にアメリカの金融当局が注視しているとされる個人消費支出(PCE)の上昇につながるというパターンで影響が出てくることになる。

実際、4月29日に商務省が発表した3月のPCE物価指数は、総合指数が市場予想にはわずかに届かなかったものの、前年同月比で6.6%上昇した。

言い換えれば、根本的な問題になっている商品価格高騰やサプライチェーンの問題が解消に向かわない限り、物価が落ち着きを取り戻すこともない。インフレピークアウトの兆候を見つけたいのなら、まずは商品価格の動向を注視し、それから生産者物価指数の伸びが止まるのを待つべきだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

著者:松本 英毅