そんな和美さんの気持ちが変わったのは、高学年を目前に実施された塾のクラス分けテストだった。健太さんの通う塾は近隣県にも展開する比較的大きな塾で、すべての校舎の生徒の中で上位200人程度が最難関クラスに在籍できる制度があった。そしてこのうち30番以内に入った人は授業料が免除になるという特典があった。

そしてなんと、健太さんはこの30人に入ったのだ。父親譲りでもともと算数が好きな健太さん。算数の問題を解くことは、父親との共通の趣味のようになっていた。難しい問題にあたるたびに、父と頭を突き合わせて机に向かっていたことも結果につながったのだろう。トップクラスに入ってからはほとんどクラスを落とすことなく最難関志望コースに在籍した。

そんなわが子の成績を見た和美さんの中でも、やっと中学受験が現実味を帯びてきた。

学校から帰るとすぐに軽食を食べさせ、塾まではタクシーで送迎した。これは達夫さんのアイデアだった。自宅から塾は車での距離はさほど遠くなく、バスや電車を乗り継いでいくより、時間も体力も奪われにくい。

「今日は学校どうだった?」「う〜ん、べつに……」。会話を投げかけても普段口数の少ない健太さんだが、タクシーに乗る数分間は母子でゆっくりと話をする時間になった。

在籍クラスでは50人程が机を並べて学んでいた。これほど大きなクラスは首都圏ではあまり耳にしない。

「土日に行われる特別学習のために、前日から宿をとって泊まりがけでくる方もいました。これも上位30人だと、交通費も宿代も塾が全部出してくれていると聞きました」

中学受験の専門家から「地方から中学受験をする人のほうが、受験熱は高い」と聞くことがあるが、あながち噂ではないようだ。

最上位クラスに入り、目の色が変わった

健太さんも最上位クラスに入ってからはがぜん、やる気が出はじめた。学校名を冠するクラスだけあって、普段の講義の最中でも、講師は目標校の学校がどれだけすばらしい学校なのかを雑談に交えて話してくる。こうした話を聞くうちに、いつの間にか健太さんもその学校を志望するようになっていた。