荒谷:ハートランド全体の社会保障や安全保障については、しっかりと整備しないといけないと思います。そのためにもブロックチェーンによって権力を透明化し、民主主義的な運営によって不正を行いたくてもできない仕組みをつくることが重要です。例えば、抽選制民主主義を採用して、いつも同じ人が「信任」を得る仕組みを変えていくこともありだと思います。

そのあたりの仕組みをどうするかについては、誰でも参加可能な議論の場を設けましたので、ぜひさまざまに議論をしながら決めていきたいと思います(Heartland Discordサーバーはこちら)。多様な分野の学術的な知見を持ち寄って考えられないかと思っています。

個人が存在することを国家が証明する仕組み

斎藤:また、ブロックチェーンを用いて、過去を含めてすべての情報を一元的に管理する点に不安を覚える人もいるでしょう。この辺りの狙いについてお聞かせください。

荒谷:プライバシーの観点からの懸念ですね。たしかに取引履歴などの個人情報がブロックチェーン上に記録されることになるわけですが、管理は個々人に委ねられます。

荒谷 大輔(あらや だいすけ)/江戸川大学基礎・教養教育センター教授。専門は哲学・倫理学。1974年生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。主な著書に、『西田幾多郎』(講談社)、『「経済」の哲学』(せりか書房)、『ラカンの哲学』(講談社選書メチエ)、『資本主義に出口はあるか』(講談社現代新書)などがある(撮影:今井康一)

現行の技術だと、そういった個人情報の管理は国や特定のプラットフォーム企業に委ねられてしまい、彼らの「良心」を信じるほかはありません。これだと確かに、どんな使われ方をするか怖くてとても預けられないというのが普通の感性でしょう。

しかし、ブロックチェーン上に記録された情報を個々人の意思で開示/非開示できるとするならばどうでしょうか。取引履歴はむしろ、その人がどんな人間かを第三者に証明するためものになります。開示された情報は、ブロックチェーン上に記録されたものですから、改ざん不可能なものとして示されます。取引履歴自体が「身分証明書」として機能するのです。

今だと国にお願いして「日本国民」という身分を保証してもらわないといけませんが、ハートランドでは参加履歴がそのまま、その人の身分を示すものになるのです。

身分証明を国家に頼る必要がなくなれば、国民が逃げられないのをいいことに暴政を働くような強権政治を世界からなくすことができます。言い換えれば、政治に同意できない人が、生活地を変えないままに、その国家から離れられるようにしたいのです。

技術的にはすでに可能な話なので、コンセンサスさえあれば今からでも実装できます。

斎藤:でもそれが悪い方向に転がれば、いまの中国における、あらゆる行為が信用スコアとして蓄積される制度になるのではないでしょうか。そこまでいかずとも、犯罪者はどのDAOにも所属できなくなってしまうかもしれない。社会復帰が困難になります。

荒谷:それは設計の仕方だと思います。中国では国家が組み上げた仕組みなので、当然共産党を特権的な立場とするような仕組みになりますが、そうでないかたちは設計できます。

斎藤:分散型でやろうということですね。

荒谷:そうですね。これが実践できれば、情報の透明性が生まれ、ハートランド内での個々のメンバーの相互信頼の基盤になると思っています。

斎藤:でもやはり、逮捕歴がある人などは、一生「いい」コミュニティには入れなくなってしまいますよね。