JR東海の葛西敬之名誉会長が間質性肺炎のため5月25日に死去した。81歳だった。

葛西氏とのエピソードで最も印象深いのが、2009年11月に行われた英『エコノミスト』誌元編集長の知日派ジャーナリスト、ビル・エモット氏と葛西氏の対談である。その内容は本誌2009年12月12日号に掲載された。

もともとの計画はエモット氏へのインタビューだったが、単なるインタビューではありきたり。ちょうどこの時期は環境にやさしい交通手段として鉄道が世界的に注目され、アメリカのオバマ大統領は全米に高速鉄道網を張り巡らせる計画をぶち上げていた。そこで、エモット氏と鉄道業界きっての論客である葛西氏が対談したら面白いのではないかと考えたのだ。

中国ではなくアメリカ重視の姿勢

幸い両氏とも快諾し、対談が実現した。テーマは環境問題、国際社会における鉄道のあり方、世界経済の見通しの3点。鉄道に関しては実務家である葛西氏が具体例に基づき議論をリードしていたのはある意味当然だったが、環境問題や世界経済見通しについても葛西氏の話しぶりはエモット氏にひけを取らなかった。

英『エコノミスト』誌元編集長のビル・エモット氏(左)と対談する葛西氏=2009年(撮影:梅谷秀司)

エモット氏がジャーナリストとして客観的かつ穏やかな表現で語っていたのに対して、葛西氏はその主張が時折過激な方向に向かいながらも信念をもって語っていた。古今東西の歴史を引き合いに出し、どんな事例も数字で説明していた。その博識ぶりに驚かされた。

2009年はリーマンショックでアメリカの製造業が凋落していた。一方で中国の経済はめざましい成長を遂げ、GDPで日本を上回ろうという、その直前の時期でもあった。そんな時代背景の中、エモット氏が「日本よりも人口の多い中国が日本のGDPを上回るのは自然なこと。中国はすばらしい市場なので日本にとってもよいことだ」と述べたことに対し、葛西氏が「中国は大事な国だが、われわれとは向かい合っている国である。アメリカはわれわれと並んで立っている国。アメリカが失ったものを日本が提供してあげることが大事だ」と発言し、アメリカ重視の姿勢を示したことが強く印象に残った。