目下、リニア工事に立ちはだかっているのは静岡工区の状況だ。トンネル工事に伴い大井川の水資源や周辺環境に影響が出かねないとして静岡県の川勝平太知事が着工を認めない。

山梨リニア実験線を視察したアメリカのラフード運輸長官(当時、右)と葛西氏=2010年(撮影:梅谷秀司)

もっとも、葛西氏はノーリスクで工事が完了するとは考えていなかった。葛西氏による2017年の著書『飛躍への挑戦』には、「金利、物価、人件費、建設工事の難易度などすべてが未知なる変数であり、完成時期もまた変数である」と記されており、戦争で中断した弾丸列車の建設が戦局の悪化と敗戦で中断し、東海道新幹線として建設が再開するまで16年かかった歴史を引き合いに出して、「中央新幹線工事は、予定どおり完成すれば200点満点、中断することがあっても100点満点と考えて進めるべき」とする。

「実は同志」静岡・川勝知事

「私とJR東海の仲が悪いと言う人もいますが、そんなことはありませんよ。この本を見てください」。川勝氏に2019年9月にインタビューを行った際、川勝氏がその頃出版した共著本を見せてくれた。タイトルは『日本の中の地球史』。版元はウェッジ。JR東海系の出版社だ。「本当に仲が悪かったら本を出版させてくれるわけがない」と、川勝氏の表情は言いたげだった。

葛西氏と川勝氏は2人とも安倍内閣が2006年に設置した「教育再生会議」の委員に名を連ね、その点では同志といえる間柄。川勝氏は「リニアに全面的に賛成している」と本誌インタビューでも明かしている。

JR東海は大井川の水資源問題の解決につながる提案を県に対して行っている。今のところ川勝氏はこの提案に否定的だが、一方で、リニア沿線の自治体で構成される建設促進期成同盟会への加入意向を示す。リニア沿線には1都県に1つずつ新駅が設置される。静岡県については南アルプスの真下を通過するため新駅の設置予定がない。しかし、期成同盟会に加盟すれば静岡県に対して新駅に代わる何らかの便宜が図られる可能性もある。はたして、それが事態打開に向けた糸口になるか。