今年はというと、まだワクチンができるまで数カ月かかる。また、接種を受けてからも免疫が完成するまでに数週間〜1カ月かかる。流行が前倒しになる可能性も念頭に、10月を過ぎたら早めの接種をおすすめしたい。

ここで必ず「私は打ちません。前に打ったけどかかったから」と訴える患者さんがいる。気の毒としか言いようがないが、しばしば起きてしまう。なぜだろう?

ひとつには、流行終盤だとワクチンの効果が切れてしまうためだ。インフルワクチンの有効性は一般に3〜5カ月と言われる。10月に接種して翌年3月までギリギリ持つかどうかだ。個人差も大きい。

そしてもう一つ、実は厚労省も、インフルワクチンには感染を「完全に抑える働きはありません」と言い切っている。

発症を防ぐ効果も「一定程度認められていますが、麻しんや風しんワクチンで認められているような高い発病予防効果を期待することはできません」としている。

じゃあ、インフルワクチンなんて意味がないのか、と言えば、やはりそんなことはない。

インフルワクチンの最大の目的は、重症化の予防だ。

実際、厚労省の研究によれば、65歳以上の高齢者福祉施設の入所者では、発症予防効果こそ34〜55%だったが、死亡を防ぐ効果は82%に上った。

これは、ワクチンを接種せずにインフルエンザにかかって亡くなった方のうち82%は、ワクチンを接種していれば亡くなるのは防げた、ということだ。決して小さな数字ではない。

インフルワクチンが「新型コロナ」重症化を防ぐ?

それだけではない。世界的科学誌『Nature』に先月、「インフルワクチンが新型コロナのリスクを減らす」という論文が発表された。

感染を免れるわけではなく、新型コロナによる重症化リスクを90%、2〜3カ月減らす可能性がある、ということのようだ。インフル予防接種を受けたカタールの医療従事者3万人の研究で示唆された。

この研究は2020年後半、まだ新型コロナワクチンが普及する前に行われている。それ以前から、インフルその他の予防接種によって免疫系が強化され、新型コロナに対抗するのを助ける可能性は指摘されていた。

もしこれが本当なら、新型コロナワクチン4回目接種の対象となっていない人や、新型コロナワクチンに抵抗がある人には、インフル予防と一石二鳥となるかもしれない。

インフルワクチンには、長すぎる製造期間(製造方法)や、国内製薬4社の寡占状態で国際競争力が皆無であること(国の“護送船団方式”)など、製造・流通過程に多くの問題点がある。

それでも、健康と命を守り、経済社会を維持していくために、使えるものは使うのが、医師として、また一市民としての選択だ。水際緩和を歓迎しつつ、全力で感染症に立ち向かっていきたい。

著者:久住 英二