小田急電鉄の通勤電車と言えば、ステンレスまたは白の鋼製車体にブルーのラインのデザインが特徴だ。東京都心の新宿と小田原・片瀬江ノ島方面を結ぶ路線で日々、通勤・通学やお出かけの足として利用されている。

その青系のイメージに反して、全身鮮やかな赤の車両も存在する。箱根登山鉄道の小田原―箱根湯本間への乗り入れ用で「赤い1000形」と呼ばれる。2009年に登山電車の車体カラーに合わせて運行を開始。一時期は4編成が活躍したが、2022年6月時点では2編成のみとなっている。

車掌の重要任務

神奈川県海老名市にある車両基地で5月19日から2日間、ある社内イベントが開催された。遠くからも目立つ赤い1000形4両編成がゆっくり走り出したと思えば停止。ほんの少しだけ前に進んだと思えばまた停止。今度は少しだけバックして停止。そしてまたスタート地点へ戻っていく――。こうした動きが何度も繰り返された。海老名駅の新宿寄りや隣接する相模鉄道のホームにいる利用者の目には奇妙に映ったに違いない。いったい何をやっていたのか。

小田急が開催したのは車掌たちによる「入替合図選手権」。日常の鉄道利用で見かける車掌の仕事と言えばアナウンスやドアの開閉、といったイメージが強いが、電車を利用している乗客目線ではうかがい知ることができない、重要な任務を背負っている。

列車の入れ替え合図もその1つ。列車が事故や故障などで自走できなくなった場合は、別の列車を誘導して連結し、後ろから押してもらったり、牽引してもらったりして移動させる。定められた場所(駅のホームなど)以外で列車を誘導するとき、必要になるのが車掌の合図だ。小田急の場合、JR線を通って運ばれてきた新造車両を受け取る際にも用いられる。車両輸送で合図を出す資格のある車掌は社内に10人もいないという。