“手づくり”で新社長へのバトンタッチの環境を整える

そうした“愚”を繰り返さないため、章男氏は、丁寧に細心の注意を払いながら、新社長育成を“手づくり”で行っている印象だ。そして、現場がやりやすい体制に変革している。また、さまざまな“場”を設定し、スピーディーに業務が進められるように、日々改善している。

たとえば、週1回「官房ミーティング」を開いている。出席者は、社長、番頭、副社長。問題意識のほか、議題の共有を図る。

「官房ミーティングは、テーマも資料もなしで行っています。断っておきますが、経営会議ではございません」(桑田氏)

同じく週1回、「地域CEOミーティング」をオンラインで開いている。出席者は、社長、副社長、CxO(Chief x Officer=最高〇〇責任者)、地域CEOだ。

このほか、月1回、「社長・CxOミーティング」を開く。社長、番頭、副社長、CxOが出席し、取締役会議案の事前審議、重要テーマを議論する。そして、取締役会に諮る。

また、業務執行には、ビジネスチャットツール「Slack(スラック)」が活用されている。社長、CxO、主要プロジェクト実務メンバーは、「Slack」を通して、日常のリスク情報などを双方向で共有、社長指示を迅速に共有し、タイムリーに実行に移す。

「最近、社長からの提案でSlackの新しいルールが生まれました。土日はなるべく控えるとか、夜は10時頃までにするとかです。ただ、緊急事態が発生することもありますので、緩いルールですね。たとえば、災害が起こると、それに対する初動が決まる。大きな考えを社長が示し、それぞれが動いていく。会議ばかりしていては、スピーディーな経営はできません」

と、桑田氏は語る。時代に即した仕事のやり方に変えているのだ。

「現場にもっとも近い社長」を標榜する章男氏は、肝心の現場についても手を打った。元副社長で、“オヤジ”こと現エグゼクティブフェローの河合満氏の後任役に、10歳若い64歳の伊村隆博氏を生産本部長として抜擢した。

「“オヤジ”からは、まだ“青い”といわれていますが、現場から経営の支援をしていくつもりです。豊田社長は一貫して『逃げない、隠さない、ウソをつかない』――とおっしゃっています。何か問題が起きたら、早く処置し、お客さまに迷惑をかけないつもりです」

と、伊村氏は言う。

後世のためのバトンタッチは、着々と進んでいる。

著者:片山 修