政府は6月7日、「新しい資本主義」の実行計画である「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」を閣議決定した。内容はすでに報じられているように、「成長戦略重視」という印象が強い。

2021年10月26日に行われた政府主導の「新しい資本主義実現会議」の第1回では、事務方から「新しい資本主義(ステークホルダー論)をめぐる識者の議論の整理」という資料が提出され、既存の資本主義の問題点などについて議論されていた。

例えば、下記のような著名人の主張が並べられ、新自由主義や株主至上主義の問題点が指摘された。

・ティロル(Jean Tirole、2014年ノーベル経済学賞受賞)は、ステークホルダー全体を考慮した企業統治を考える必要性を提唱し、そのための経営者に対するインセンティブと制御の構造を研究すべきとの論⽂を2001年にEconometricaに発表。

・ラジャンとジンガルス(Raghuram Rajan & Luigi Zingales)は、現代の企業において価値を⽣み出す源泉が何であるかという別の視点から「株主価値最⼤化」の企業統治の仕組みに疑問を提起。

・ヘンダーソン(Rebecca Henderson、ハーバード・ビジネススクール教授)は、気候変動や格差といった問題に対しては、「株主価値の最⼤化」という考え⽅を離れ、資本主義の再構築を⾏うことが必要と主張。

・投資家サイドの代表的論客のラリー・フィンク(Larry Fink、世界最⼤の資産運⽤会社ブラックロックのCEO)。彼は2018年1⽉、投資対象企業すべてのCEOに宛てた書簡において、⻑期的な利益を達成するために広い範囲のステークホルダーの利益を追求すべき旨を明記。

「新しい資本主義」は着地前に流れが変わった

ところが、これらのスタート時にみられたコンセプトと比べると、今回、出来上がった実行計画は、前政権までの「成長戦略」にかなり近い着地となった印象である。

そうした結果を受けて、実現会議のメンバーでもあり、「新しい資本主義」によって「株主至上主義の是正」を訴えてきた原丈人氏は、朝日新聞のインタビュー(5月30日朝刊掲載)において、実行計画に対して「資産所得倍増の前に分配政策を」と「不満」を訴えた。

2月にBloombergが行ったインタビューでは、原氏は「(岸田首相と)よく会っている。いろいろな助言はしている」とし、「新しい資本主義実現会議」と原氏の財団を「車の両輪」に例えていたことを考慮すると、実行計画策定の段階で、流れが大きく変わったのだろう。岸田政権の「新しい資本主義」の着地点が明確でないことは、原氏のような識者のクレームからも明らかだ。