欧州は、次世代環境車の本命をディーゼルエンジン車としてきたが、2015年に独フォルクスワーゲンによる排ガス不正問題が発覚。ディーゼルエンジン車はエコカーからはずれた。それを機に、欧州ではEV化が急加速した。

この背景には、自動車発祥の地・欧州の隠れた意地、意志が働いている。このままでは、HVに強みを持つトヨタにエコカーの主導権を握られるとして、EVを前面に打ち出し、HVの販売禁止を打ち出したのだ。露骨な“HV潰し”である。

EV先進国路線を走る中国も、野心を秘めている。EVを中心とする新エネルギー車を推進し、自動車先進国へ一気に飛躍するという野望だ。官民の総力を結集してインフラや制度をまるごと変え、主導権を握ろうとする。

中国は、世界最大の温暖化ガス排出国だ。石炭の消費量は、世界の半分を占める。EVの電源が石炭火力発電なら本末転倒といえなくもない。

「世界の企業はいったい、脱炭素をどれくらい本気でやる気があるのか」。哲学者で、京都大学名誉教授、公立鳥取環境大学名誉学長の加藤尚武氏は疑問視する。

日本のエネルギー安全保障のためにも、水素は重要

加藤氏が注目するのは、章男氏が進める水素エンジンの開発だ。

水素は、燃やしても二酸化炭素が発生しないクリーンで安全なエネルギーだ。水を電気分解すればほぼ無限に作ることができ、枯渇のおそれがない。長期貯蔵、長距離輸送にも対応する。

化石資源の乏しい日本が、海外に依存する石炭や石油の一部を水素に置き換えることは、エネルギー自給率を高め、エネルギー安全保障に役立つ。

トヨタは2014年12月、世界初の量産型FCV「MIRAI」を市場投入し、2016年からは水素エンジンの技術開発に取り組んできた。どちらも水素で走る。

FCVが化学反応で生み出した電気でモーターを回すのに対して、水素エンジン車はガソリンの代わりに水素を燃やして動力を得る。

水素の取り組みについて、章男氏は次のように語っている。

「日本のカーボンニュートラルの取り組みに、水素は新しい道筋を与えてくれる。日本には日本の道筋があるのではないだろうか」

というわけで、章男氏は、水素エンジンの開発に力を入れている。水素エンジンの実用化については、「10年かかる」「モノになるかわからない」など否定的な声がある。しかし、章男氏は意に介さない。加藤氏によると、オーストリア生まれの哲学者カール・ポパーは、人間の科学的知識の成長は予測不可能だと説いたが、そのとおり、章男氏は未来の技術を信じてかけるという。