安倍政権は2013年に策定した国家安全保障戦略や防衛計画大綱に中国の脅威への対処を盛り込むなど、対中政策の分野ではオバマ政権のアメリカに先行していた。当時、アメリカの有識者の間では、中国台頭について日本政府は過度に反応しているとの声が支配的であった。アメリカ国民そして政府高官も、ニクソン訪中以来続いていた中国に対する関与政策を支持していた。

だが、その後、オバマ政権末期そして特にトランプ政権に入ってから、アメリカも日本に追随し、対中政策を強硬路線に軌道修正した。中国によってリベラルな国際秩序が脅かされていることを、安倍氏はアメリカを含む世界首脳陣の中で誰よりも早期に察知していたことを、ワシントンの有識者は今日、評価している。

バイデン政権が現在、推進する対中政策を念頭に置いたアメリカのアジア太平洋地域の戦略「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」や首脳会議を開催するようになった日米豪印の枠組み「クアッド(QUAD)」は、もともと安倍政権の発案であった。アメリカ議会の米日議員連盟も、7月8日の声明でクアッドとFOIPは安倍氏のレガシーであると称している。

日本がアジア自由貿易推進のリーダーに

アジア太平洋地域の経済的枠組みを構築した安倍氏の功績も、ワシントンでは高く評価されている。「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」交渉に遅れて参加した日本については当初、市場開放に本気であるか懐疑的な見方もあった。ところが、2016年大統領選以降、アメリカが超党派で保護主義に傾斜する中、日本が自由貿易推進をリードすることとなった。

トランプ前大統領は政権発足から3日後にTPPを離脱した。だがその後、安倍政権はアメリカを除くTPP加盟11カ国の交渉を率い、新協定「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」発効に至った。

オバマ政権時代にアメリカ政府でTPP交渉にあたっていた通商代表部(USTR)元高官は、アメリカの離脱後にTPPは崩壊すると見ていた。アメリカがTPP交渉の中心的役割を担っていたからだ。当時、ワシントン有識者の間でも、いずれアメリカの政権交代で自由貿易推進派が登場するまでTPP交渉は棚上げとなると見られていた。まさか日本がリーダーシップを発揮し、CPTPPを発効させるとは想定していなかった。当初はTPP交渉への本気度を疑われていた日本が、域内自由貿易の最大の推進者となった展開は、ワシントンでは驚きをもって受け止められた。