そのような認識が大きく崩れていく。その転機となったのが、2010年9月の尖閣漁船衝突事故をめぐって中国がレアアースの天然資源を日本に圧力をかけるための道具として利用したことであり、また2014年3年にロシアが軍事的威嚇をともなってウクライナ領であったクリミアを自国領として併合したことである。

これらのことから、次第に中国やロシアとの経済協力の困難や問題が指摘されるようになった。また、2018年10月のマイク・ペンス副大統領の演説や、2019年7月のマイク・ポンペオ国務長官の演説に見られるように、トランプ政権下のアメリカは中国の権威主義体制を批判して、従来のような経済相互依存関係を見直す必要を説くようになった。いわゆる「デカップリング」である。

米中の対立と分断が進行することにより、日本もまた従来の中国の緊密なサプライチェーンの関係を部分的に見直して、それを再編する必要に迫られている。

世界は統合の力学が働く「グローバリゼーション」の時代から、部分的に分裂や分断が進む「デグローバリゼーション」の時代へと移行したという指摘も見られるようになった。

冷戦時代のように、全面的に米中や日中が「デカップリング」を進めることは不可能であるが、民主主義体制と権威主義体制の対立がしばしば論じられる中で、従来と同じような楽観的な日中経済関係の未来を見通すことは難しくなってきた。だとすれば、これからの時代において、日本は多様な要素を総合的に判断して国家安全保障戦略を策定せねばならないであろう。

日本の地経学戦略を確立せよ

これまで論じてきたような古くて新しい課題に対応していくうえで、「地経学」という用語が近年は頻繁に用いられるようになってきた。従来の「地政学」という用語に対して、よりいっそう経済的な手段、経済的なパワーが重要になっているのである。

そして、21世紀に入ってからの新興国の台頭に伴うパワーバランスの変化や、経済と安全保障がよりいっそう緊密に結びつくことによる国際関係の質的な変化に対応する新しい外交戦略が求められるようになった。