例えば、財産6億円超をそのまま相続する場合、相続税の限界税率は55%。が、これを相続前に4500万円分ずつ贈与すると、贈与税の税率50%で済む。同様に財産4000万円を相続する場合、相続税率は20%だが、400万円ごとに分けて贈与すれば、贈与税率は15%でいい。

つまり、財産を分割して贈与することで、相続税の累進負担を回避でき、多額の財産を移転できるというわけ。早く長く贈与するほど、つまり、まだ子が若いうちから贈与されるほど、大きく節税できる構造になっている。過去のデータを見ても、受贈者(贈与を受ける者)が29歳までの場合、贈与額が2000万円超のほうが、同じく2000万円以下、1000万円以下より、何年も連続して贈与を受けていた、という実績もある。

しかし、こうした手法は格差の固定化につながると、政府はかねて問題視してきた。“本格的な検討”との表記は2年連続で続いている。最短なら2022年末、つまり今年末発表の2023年度税制改正大綱で踏み込んだとしても、おかしくない。

資産移転の時期に中立にするには、贈与税のうち、暦年課税を廃止し、相続時精算課税に一本化することだ。ただし暦年課税の課税人数は36万人と多い(2020年度)。「非課税枠の110万円をなくすのは政治的にいって非常に難しい。額を縮小するのも、そこまでやるのはどうか」と宮沢洋一・自民党税制調査会会長は胸の内を明かす。

現実的にありうるのは、暦年課税でも採用されている、相続加算の期間を延長することだろう。

現状の暦年課税も、相続前の3年間に贈与した財産は、相続時には相続財産に加算されている。これを5年間や10年間に延ばせば、実態は相続時精算課税に近づいてくる。ドイツでは10年間、フランスでは15年間が加算期間になっている。「期間を延ばすのは議論の対象になる」(宮沢会長)。

仮に10年間に延長ともなれば、親の死亡からさかのぼって10年間に行った贈与は、すべて相続扱いになってしまう。暦年課税の節税効果は大きく減殺されよう。

「格差是正」で富裕層から狙い撃ちされる

岸田文雄首相は「新しい資本主義」を掲げている。参議院選挙で勝利し、黄金の3年間を手に入れた今、成長より分配、財政規律の維持など、岸田カラーをこれから打ち出すだろう。マンション節税や生前贈与をはじめ、格差是正を大義に、まずは富裕層から狙い撃つ公算が高い。

ちなみに、米国では遺産税の非課税枠が1158万ドル(約15億円)もあり、課税割合はたった0.2%(日本は8%台)。遺産税に関わるのは超金持ちのみに過ぎない。富裕層から準富裕層、果ては中流層まで、広く相続税を心配する日本とは対照的だ。

今号では、節税“受難”時代に備えたあらゆる相続対策を網羅したので、お盆休みに帰省したら、ぜひ親子で話し合ってみてほしい。

著者:大野 和幸