しかし無限にある陰謀論のラインナップのいずれにおいても、主役は道に迷った理性ではない。主役は理性が道に迷う原因となる強い物語だ。そこで、これら誇大妄想的なファンタジーを実態にふさわしく「陰謀物語」と呼ぼう。

陰謀物語がなぜこれほど伝染しやすくしぶといのかを理解するには、最も古くからあって、そのでたらめさとしぶとさにかけて世界屈指というべき陰謀物語を考えてみるとよいだろう。地球平面説だ。

150年以上しぶとく生き残っている「地球平面説」

地球平面説の生みの親はサミュエル・バーリー・ロウボサム(1816〜1884)、各地を転々としながら講演、著述、医者まがいのことをしていた人物で、「パララックス」の名で通っていた。

地球が恐ろしく古いビリヤードボールのような球体で、時速1000マイル(約1609キロメートル)の猛スピードで自転しながら太陽の周りを時速6万7000マイル(約10万8000キロメートル)で回っているなどうそだ、とパララックスは断言した。

地球は本当は新しくて、動かず、パンケーキのように平らである。月と太陽はパンケーキ型の地球の上を、1本の軌道に乗った2つの小さな照明のように移動している。諸大陸はパンケーキの中央に飾られた果物のように集まっている。縁を巨大な氷の壁がホイップクリームのように取り囲み、海が虚空に落ちるのを防いでいる。越えられない氷の壁を実際に越えたらその先がどうなっているかを、本当は誰も知らないとパララックスは説明した。

だがもしパンケーキのような地球の下にスパチュラを入れて引っくり返せたとしたら、反対側はおそらく地獄だろう。

パララックスは、地球は平らだという自分の主張を似非科学用語で塗り固めていた。だが科学者になるために高学歴は必要ないと彼は力説した。数学など知らなくてもいい。技術的な機械装置もいらない。必要なのは常識感覚だけだ。私たちの惑星が時速数千マイルで宇宙空間を回転しているように感じるだろうか。そう感じないのは、実際そうではないからだ。

地球平面説を信じているのはアメリカの成人の2%、およそ600万人である。これだけ見れば、地球平面説は物語戦争で大敗北を喫していると思われるかもしれない。

だが見方を変えれば、地球平面説は大健闘している。科学的にはまったく破綻しているにもかかわらず、150年以上も生き永らえているからだ。