政府は、2018年に作成した資料で、社会保障給付と負担の長期見通しを示した。ゼロ成長経済を想定すると、1人当たり負担は4割も増加する。それにもかかわらず、社会保障負担引き上げの具体策に関する議論は、ほとんど行われていない。

昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第76回。

負担率がわからない

社会保障給付の将来推計として、内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が2018年5月に作成した資料がある(「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」:以下「政府見通し」という)。これについては、「日本の政治家が社会保障の議論から逃げている訳」(2021年10月31日配信)で紹介した。

この資料は、社会保障の将来を考えるうえで貴重なものだ。しかし、いくつかの問題がある。

第1は、社会保障の負担率がどのようになるのかがはっきりしないことだ。

上記の見通しには、2018年度から2040年度までの社会保障給付や負担が示されている。

「現状投影ケース」では、2040年度の保障給付も社会保障負担も、2018年度の約1.6倍になる。

しかし、この数字からは、負担率などがどのように変化するかをつかむことができない。

仮に、高齢者の増加のために、社会保障給付が60%増えるとしよう。賃金が変わらず負担者数も変わらなければ、1人当たりの負担は60%増える。だから、保険料率などを引き上げる必要がある。

しかし、賃金が60%増加すれば、負担率は不変にとどめられる。保険料率は、現行のままでよい。

このように、経済成長率のいかんによって、社会保障制度の状況は、大きく変わるのである。

「日本に1%成長の実現が強く求められる切実な訳」(2022年8月7日配信)で述べたように、経済成長率が0.5%か1%かによって、数十年後の世界は、まるで違うものになるのだ。

上記の政府見通しでは、賃金について、かなり高い伸び率が想定されている。2028年度以降は、2.5%だ。

では、賃金をこのように上昇させることが可能だろうか?