映画作品には商業的成功のために衆目を集めることが求められるから、気候変動によって起こる自然現象のすさまじさといった劇的なシーンが強調され、主人公の冒険というスリルのあるストーリーが中心に据えられる。

しかし、現実の地球温暖化の影響はより広範に時間をかけて起こる。温暖化は海面上昇を引き起こすが、それは水温上昇による海水の熱膨張によるものが最も大きく、それにグリーンランドや南極の膨大な量の氷床の融解などが加わるとされる。少しずつの海面上昇はドラマチックではないが、それが累積すると、国単位のレベルを超えた巨大な変動につながる。それは、気象学や物理学といった自然科学だけではなく、国や社会、経済や政治を否応なしに巻き込むものだ。

2050年には1.5億人が住む場所を追われる

現在の世界人口の3分の2以上は、海岸線から100キロ以内に暮らしており、その多くは低地であるため、温暖化による海面上昇の影響を受ける。仮に海面が1m上昇するとしよう。マーシャル諸島では国土の80%が海面下に沈むとされる。バングラデシュでは、国土面積の18%にあたる26,000㎢が同様の状態になる。こうした地域に住む人々の大多数は、どこか別のより高い場所への移住を余儀なくされるだろう。

『テクノソーシャリズムの世紀』(ブレット・キング/リチャード・ペティ著)では、2019年に『ネイチャー』誌に掲載された研究を引用して、「2050年の海水面の高さの予測では、総計で現在1.5億人の住む土地が脅かされ、将来的には恒常的に満潮線の下となるだろう」とする。そして、シリア内戦では1,300万人の難民が生まれ、2015年にはその一部がEUに流入したことと対比している。シリア難民の10倍規模で気候難民が生じれば、その移動が1国内だけにとどまらないことは十分に予想できる。

さて、前出の「デイ・アフター・トゥモロー」では、南へと殺到するアメリカの住民を警戒したメキシコが国境を封鎖するが、アメリカ大統領の交渉によって国境は開かれ、大規模な移住が実現した。映画とは異なり、温暖化は時間をかけて進行する(それでも歴史的な観点からすれば圧倒的に短期間だが)。また、海面上昇速度の予測の精度も上がるだろうから、水没時期の見通しも立てられる。となれば、本来であれば、2国間というよりも国際的な枠組みで国を跨ぐ移住プランが策定されてもよいだろう。