イジュム陥落により、ドンバス地域を完全制圧するというプーチン政権の軍事目標の実現は完全に遠のいた。2022年2月末に侵攻を開始したプーチン政権は、当初狙った首都キーウの制圧に失敗。その後目標をルハンスク州とドネツク州を合わせたドンバス地方の完全制圧に目標を切り替えていた。それだけに今回のイジュム陥落は大きな権威失墜の事態だ。

「ウクライナ侵攻」 奪還領土が6000平方キロメートル超に(写真・共同通信イメージズ)

ロシア国防省は2022年9月10日、イジュムとバラクレヤに展開していたロシア軍部隊を東部ドネツク州方面に「再配置する」と発表した。敗走を認めたくないクレムリンの苦しい言い訳と言える。

このウクライナ軍の巧妙な戦略を支えているのは総力戦体制だ。正規軍、軍情報機関、そしてパルチザン的な協力を行う住民が連携している。住民はロシア軍の移動をスマホで映像に撮って軍に伝えている。今回のイジュムから南部への増援派遣も、住民からの通報でウクライナ軍に筒抜けになっていた。

軍服脱いで脱走図るロシア兵

これとは対照的なのが、ロシア軍の明らかな士気低下だ。イジュムへのウクライナ軍の接近に気づかなかったことからして、「偵察がずさんだった」とロシアのメディアも指摘するほどだ。最前線から逃亡しようとする兵士が、これを止めようとする上官を射殺するケースも報道されている。

ヘルソンでは包囲から密かに抜け出そうとする兵士らが軍服から私服に着替えて、ドニエプル川西岸から東岸に逃げようとしているという。西岸には最近、ロシア・チェチェン共和国から部隊が投入されたが、任務は戦闘というよりロシア兵の脱走阻止と言われている。


ロシア軍の指揮統制の混乱は、ウクライナ側も指摘している。2022年6月に侵攻作戦を指揮していたドボルニコフ司令官が解任されて以降、誰が後任なのか明らかになっていない。ウクライナは大規模な地上戦一本やりという、ソ連時代以来の戦略を引きずるロシア軍最高幹部の作戦立案能力の欠如を指摘している。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、セルゲイ・ショイグ国防相はじめロシア軍最高幹部の「知的レベルが低いのはわが国にはよいこと」と皮肉っているほどだ。

さらに今回のイジュム陥落で露呈したのは、ロシア軍部隊の兵力不足だ。ウクライナ軍の反攻は、①ハリコフなど北東部、②東部ドンバス地方、③ヘルソン、ザポリージャの南部という3方面に展開している。先述したイジュムからヘルソンへの部隊急派が示しているのは、反攻をこの3方面でそれぞれ食い止めるだけの十分な兵力がロシア軍にないことを露呈した。

キーウの軍事筋は、正規軍や領土防衛隊などを含めた全兵力数の面で「ウクライナ軍はもはやロシア軍に勝っており、火力でもロシア軍との差を縮めている」と指摘する。

プーチン政権にとって芳しくない情報はまだある。ロシア軍が主導権を取り戻す切り札として編成し、投入したはずの「第3軍団」の動向が不明だからだ。同軍団は2万人規模で志願兵から成り、最新兵器も装備しており、南部に派遣されると言われていた。しかし現状ではどの戦線に配備されたのかは報道されておらず、今後どこに投入されたとしても同軍団に戦局を変える力はないとウクライナ側はみている。