また、迅速に決定されたにもかかわらず、西側諸国の結束が乱れていないのも今回の制裁の特徴である。経済制裁は後でも述べるように自国の経済にも大きな損害を与える可能性があり、さらにはロシアの報復も想定されるため、各国は自国の利益を優先して、制裁に及び腰になる可能性もある。

しかし、今回はロシアの国際法違反というだけでなく、ブチャの虐殺のような残忍で非人道的な行為に対する社会的な批判も強く、各国が経済的な損失のリスクを抱えながらも、さまざまな制裁措置を実施することで歩調を合わせている。

さらに、制裁のメニューもほかの制裁にはない広範な制裁となっているのが特徴的である。金融制裁、とりわけSWIFTからロシアの銀行を切り離し、ロシア連邦中央銀行の国外資産を凍結し、ロシア国債の外貨での起債に制限をかけるといった措置を取っただけでなく、暗号資産の取引の制限強化や奢侈品(ぜいたく品)の規制、半導体などのハイテク製品の規制、新興財閥(オリガルヒ)などプーチン政権に関与する個人や団体の資産凍結など、さまざまな制裁が盛り込まれた。加えて、ロシアの航空会社の乗り入れ禁止やロシア人旅行者に対するビザ発給の優遇条件の撤廃といったメニューまで含まれる広さがある。

ただ、ロシアの天然ガスに依存している欧州各国は、その輸入をいきなり止めることはできず、ロシア経済に決定的なダメージを負わせることはできていない。過去の制裁は、イランにしても、北朝鮮にしても、いずれも西側諸国から見れば依存度が低く、制裁を実施しても、自国の経済へのダメージは小さい制裁対象であった。

しかし、ロシアはそれらの国々とは比較にならないほど大きな貿易相手であり、とりわけ化石燃料や鉱物に関しては、欧州各国はロシアに強く依存している状況であった。それだけに、制裁を実施することで、自らの経済への影響が甚大であるという点は、これまでの制裁では見られなかった状況である。

それゆえ、今回の対ロ制裁は、ほかの制裁と比較しても「強い」制裁とは言えず、その結果、ロシアの経済に十分なダメージを与えるということは難しい制裁でもある。

制裁の目標設定

これまでの制裁は、それによって対象国の行動変容を促し、制裁の対象となっている行為を止めさせ、交渉のテーブルに着かせることを目的としていた。イランや北朝鮮に対する制裁は、制裁解除と引き換えに核開発を止めさせることを目的としていた。イランに対しては2015年のイラン核合意が成立したことで、制裁は一定の効果があったと認められるし、北朝鮮に対しても、一度は六者協議という場を設定することはできた(現在ではその枠組みは機能していないが)。