しかし、iPhoneでは事情が違う。残念ながら、日本企業ではiPhoneと同じ品質のスマートフォンを作ることができない。だから、アメリカで高い労働力を使って作ったiPhoneを買わざるをえないのだ。日本の賃金が低いことは、iPhoneの価格を引き下げるのに、何も寄与しない(正確にいうと、アメリカの高い労働力を使っているのは、iPhoneの設計に関してである。製造は中国の工場で行っている)。

こうした問題は、以前から存在していたものだ。このところの急激な円安のために、多くの人が気づくような形でそれが表れたのだ。

結局のところ、「安い日本」が問題なのでなく、「賃金が安い日本」が問題なのだ。日本で賃金があがらないこと、円安が続くこと、それらが問題だ。

このまま続けば、どうなる?

実は、「安い賃金で作れるから大丈夫」と言ったビッグマックも、いつまでも日本の価格が安いままに留まっているとはかぎらない。

なぜなら、ビッグマックを作るためには、牛肉や小麦粉など、輸入に頼らざるをえない原料が必要だからだ。それらの価格は、いま高騰している。だから、価格高騰が続けば、いくら日本の賃金が安いからといって、ビッグマックの価格を維持し続けるのは難しくなるだろう。日本マクドナルドは、ちょうど9月30日からビッグマックの価格を従来の390円から410円に引き上げた。

輸入価格高騰の半分程度はウクライナ問題などの海外要因によるが、半分程度は円安による。ウクライナ問題がおさまっても、構造的な円安が続けば、日本は貧しさのスパイラルから脱却することはできない。

このままの事態が続けば、日本人には高くて手が届かないものが続出するだろう。「舶来品」という言葉は、長らく死語となっていたのだが、それがよみがえるかもしれない。

そして、20年後の日本は、信じられないほど貧しい国になってしまいかねない。

日本に来ても賃金は安いので、外国の有能な人材は日本に来なくなる。日本の有能な人材は外国に流出する。要介護人口は増えるが、介護してくれる人は外国にいってしまう。

こうした事態を、どうすれば食い止めることができるだろうか?

著者:野口 悠紀雄