ロシアによるウクライナ侵攻は、2022年10月末で9カ月目に入った。軍事的に窮地に追い込まれたプーチン政権は、「ダム爆破」や「汚い爆弾」攻撃など新たな脅迫戦術に打って出た。戦勝は無理でも、何とかウクライナの反攻作戦の勢いを削いで、停戦交渉のテーブルに引き出すための瀬戸際戦略とみられる。

国内的にも「部分的動員令」に続いて戒厳令を宣言し、戦時総動員体制へと完全に切り替えた。戦況の悪化を受けてクレムリン内外では不満が高まっており、このマグマが政権打倒の動きとして噴出しないよう、よりいっそう、力で抑え込む構えだ。こうしたギリギリの執念を見せるプーチン氏の脳裏には、かつての独ソ戦で首都モスクワが陥落寸前まで追い込まれながらも逆転勝利した独裁者スターリンの姿があるとみられる。

ウクライナによるヘルソン市奪還も

戦局で当面の焦点は南部ヘルソン州だ。隣のザポリージャ州とともに、侵攻開始直後にロシア軍が占領している地域だ。2022年8月末からのウクライナ軍による反攻作戦の結果、現在はウクライナ軍がドニプロ(ドニプロ)川右岸にある州都ヘルソン市を三方から包囲している。

親ロシア派の「行政府」は10月20日過ぎから住民に左岸への退避を呼び掛けており、ロシアに併合された4州のうち、州都としては初めてヘルソンをウクライナが近く奪還するとの見方も出ている。

しかし、ロシアの軍事専門家であるユーリー・フョードロフ氏は、プーチン氏がヘルソン市防衛を厳命したという。ヘルソン州には元々ロシア軍の最精鋭部隊である特殊部隊や空挺部隊など約2万5000人規模の部隊が配置されていたが、9月末以降に急遽かき集めた動員兵約2000人程度が派遣されたという。

プーチン氏としては、ヘルソン市が奪還されてしまったら侵攻以来最大の軍事的敗北になり、2022年9月末に一方的に実施した「住民投票」を経て宣言した「4州併合」が早くも瓦解を始めることになるからだ。

しかしウクライナ軍はヘルソン市奪還を急ぐ様子を見せていない。その理由は2つある。

1つは、激しい市街戦になればウクライナ軍や住民に多くの死者を出す恐れがあるためだ。そもそもロシア軍がヘルソン市に籠城する道を選ぶ場合、それはウクライナ軍に多くの損失をさせるための罠だとの説も出ているくらいだ。もう1つの理由としては、守りに当たるロシア軍の精鋭部隊を攻撃することで、激戦が続くドネツク州方面にこれら精鋭部隊が転戦する事態を回避したいという思惑がある。