こうした世界の潮流の中で、「経営学」と「サイエンス」も融合が進んでいます。翻って日本の経営学は、現在も定量分析より定性分析を重視する傾向があり、ビジネススクールでも経営学の授業はケーススタディの比重が高くなっています。

私は決して日本の経営学を批判しているわけではありません。グローバルの水準と比較してもレベルの高い研究が多いですし、優秀な経営学者も数多く輩出しています。ただ日本の経営学の特徴として、他分野との連携が少ないことと、定量研究の基礎を知らずに定性研究だけをやっているケースが少なくないようにも思います。

日本にも優秀な経営学者は多いと言いましたが、実は層が厚いのは60歳以上の世代です。つまり、日本経済が強かった1980年代までに研究者として実績を積んだ人たちであり、その下の世代は層が薄くなりつつあります。日米のアカデミアの世界を見てきた私としては、こんなところにもグローバルな経営学との差が生じていることを実感せざるを得ません。

私が日本のビジネススクールで科学的思考法を教えているのも、もはやサイエンスが多様な分野で共通化されたスキルになっているからです。実務家であっても、経営学だけでなく、分野をまたいで多様なアカデミアの知見を吸収しなければ、グローバルビジネスでの激しい競争を勝ち抜くことはできません。

いまや「サイエンス」は遠いものではない

最近、アメリカではエグゼクティブPh.D.という実務家向けの博士号課程プログラムも広がりつつあります。それだけ、博士を持った実務家が重要になっているということです。博士とは研究者になるためだけのものではなく、科学的思考法を身につけた人を指す称号でもあるのです。

日本のビジネスパーソンにとっても、いまや「サイエンス」は遠いものではなく、企業経営や実務の領域にまで染み出してきています。拙著『科学的思考トレーニング』でもグローバル企業が日常的に科学的実験を行っている事例を紹介しましたが、日本企業でも科学的思考法や科学的実験の手法を取り入れれば、大きな強みになることは間違いありません。

まだ科学的思考法を取り入れていない日本企業が多い中、いち早く取り入れれば、日本企業の中での競争優位性にもなるでしょう。

著者:牧 兼充