都内のテレビ美術制作会社で働く燃え殻さんは、約9万人のフォロワーを抱える人気ツイッタラーでもあります。「140文字の文学者」とも呼ばれる燃え殻さんが挑んだ初小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』の題材となったのは、「昔の彼女」という存在でした。

ボクは21年間、同じ会社に勤めている。もちろん、辞めたいと思ったことは何度もある。でも「辞めます」と言った時の社長の困った顔を見たくないという情けない理由で、同じ会社にずっといるような人間だ。21年間、罪も犯さず、ずる休みもほとんどせず、勤め上げた人間を人は、大人だと安易に呼んだりする。秘訣を聞きにくる人までいる。ただ「辞める」という決断力がなかった人間だとバレないように、ボクは今日も働いている。

ボクの会社の近くには公園があって、昼になると毎日お弁当を買ってベンチに座り、iPodを起動させる。ほどなく小沢健二の『天使たちのシーン』が流れてくる。ボクはぼんやりとベンチに座りながら、この音楽を聴いていた頃の彼女を思い出したりする。

【神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように にぎやかな場所でかかりつづける音楽に 僕はずっと耳を傾けている 耳を傾けている 耳を傾けている】――小沢健二『天使たちのシーン』

自分の運命を大きく変えてくれた「あの人」

もしも人生で小説を書くことがあるならば、もう会う事はかなわない、自分の運命を大きく変えてくれた「あの人」を書きたいと思って生きてきた。そんな日が本当に来るとは思っていなかったけれど。よく男は未練たらしいとか、元カノはずっと自分のことを好きだと思っているんじゃない? とか言われる。でも言わせてほしい。それは違うのだ。

男は昔の恋人を「忘れない」のではない。男は昔の恋人で「できている」のだ。

いい年して恥ずかしいのだけれど、ボクの口癖は「マジかー」だ。それは最初、彼女の口癖だった。彼女はラーメンがうますぎても、飼い猫が永眠したとメールで知っても「マジかー」と言って笑ったり、泣いたりしている子だった。ボクは彼女が嬉しくても悲しくても、棒読みで言う「マジかー」がツボだった。