面談ルームの中で、藤岡誠司(54歳、仮名)は、静かに口を開いた。

「4月に55歳になります。子どもをあきらめたわけではないので、できるだけ早く再婚したいんです」

40代、50代で結婚相談所にやってくる男性のほとんどが、藤岡のように結婚後に子どもを授かることを望んでいる。そうなると、お見合いの対象となる女性の年齢も限られてくる。

「30代前半なんてぜいたくなことは言いません」

「お子さんが欲しいとなると、女性は30代がご希望ですか?」

「はい。ただ私も55になるので、30代前半なんてぜいたくなことは言いません。アラフォー女性で探したいです。上限は41くらいでしょうか」

私は、こうした男性が面談に来たときには、いつもこの説明をする。藤岡にも同じことを言った。

高齢になって子どもを授かるのは、非常に厳しい道のりである。

女性の卵子が年齢とともに老化していくというのは、もう周知の事実。卵子が老化すると、まずは受精率も下がる。その境界線が35歳で、受精率が下がるだけでなく、受精して着床したとしても流産する確率が35歳を過ぎると20%を超え、40歳に近づくとそれが40%に上がると言われている。

いっぽう老化するのは、卵子だけではない。男性の精子も同様で加齢とともに濃度や運動率が落ちていく。そんな中で、正常形態の精子は減少し異常形態のものが増えていく。それが女性と同じく、35歳を過ぎたころから少しずつ始まると言われている。

つまり、高齢者同士の妊娠出産の確率は非常に低く、出産にまつわるリスクも高く、染色体異常なども起こしやすい……。

私のこの説明をさえぎるように、藤岡は言った。

「そんなことはわかっています! わかっていますけど、可能性がゼロでないかぎり、そこにかけたいんです。不妊治療も視野に入れています。ただ……」

ここまで言うと、一呼吸置いて続けた。

「不妊治療は女性の体への負担が大きいと聞きます。もしも女性が、『不妊治療はしたくない』と言うのなら、自然に任せて、結果子どもを授からないならそれを受け入れます」