入居したばかりの頃、リビングでスマホをスクロールしてアプリを見ていた吉田美枝(35歳、仮名)が、素子に言った。

「佐野さん、恋人いるの?」

「ええ、一応」

「結婚しないの? あ、でも、ここに入居してきたってことは、まだ結婚を考えていないってことだよね。私は1年以内に結婚を決めて、ここから出ていきたいの。だから、絶賛婚活中」

美枝は、数ある婚活の中でも、婚活アプリがいいと力説した。

「最初は、婚活のできる居酒屋とかバーとかパーティーにも行ったけれど、そういう場所は、出たとこ勝負でしょ。そこにいい男性がいるとは限らない。

でも、婚活アプリは女性の登録がタダだし、男性の顔と条件は最初にわかる。写真はすてきだったけど本人は全然違っていたり、経歴詐称していたりする人もいるけれど、騙されるのはこっちも悪いし、逆に男を見る目が養われるわよ」

それを聞いて、素子は、自分の友達がシェアハウスで出会った精神科医と結婚をした話をした。

「出会いはどこに転がっているかわからないものね。ただ、ここのハウスには、候補になりそうな男性はいないけど」

シェアハウスに候補になりそうな男性がいないと断言されたのは、出ばなをくじかれた気がしたが、出会いはどこに転がっているかわからないというのは、確かにそのとおりだと思った。婚活アプリをやってみるのも1つの方法かもしれない。そこで、美枝が登録しているのと同じアプリに素子も登録をした。

出会いはあるけれど、結婚できる人に出会えない

素子は、私に言った。

「婚活アプリで、この半年のうちに20人くらいの人に会いました。でも、結婚できる人には出会えなかった。写真とはまったく別人で10歳くらい老けている人もいたし、会話が一方的で続かない人もいたし、何か女慣れしていない印象の方が多かったです。あと、割り勘が悪いとは思わないけれど、きっちり半分に割る男性もいて、なんか“セコいなぁ”と思ってしまいました」

また中には、出会ったその日に食事の後にカラオケボックスに誘われ、その中で抱きつかれ、キスをしてきた男性もいた。ほかにも、カウンターのお店に連れていかれ、お酒が入ってくると手を握ってきたり、肩を抱いてきたり、やたらとボディータッチをしてくる男性もいた。