29の生き物たちに運命づけられた、それぞれの生と死。そのユニークな生態を紹介しつつ、余韻に満ちたエッセーに仕上げている。予想した以上の奥深さ。出合えたことを幸運に思える本だ。『生き物の死にざま』を書いた静岡大学大学院の稲垣栄洋教授に聞いた。

知られざる蚊の「死にざま」

──蚊(アカイエカ)の物語、切なかったです。

交尾を終えたメスが、幾重もの困難を突破して家に進入し、人間の肌に着地し血を吸い取ることに成功する。後は屋外へ脱出し産卵という最後の最後、ピシャッとたたかれて死ぬ。1匹の蚊の命を懸けた大冒険は突如幕引き。でもそれは、「ただ、それだけの夕暮れ」。

──そのあっけなさと、生をつなぐための緻密な機能のコントラスト。無常感さえ漂うような。

蚊の口は1本の針のように思われてるけど、実際には6本の針が仕込まれていて、まずギザギザがついた2本の針で人間の肌を切り裂き、別の2本の針で開口部を固定する。さらに1本の針で麻酔成分と血液凝固を防止する唾液を流し込み、もう1本で目当ての血を吸う。いろんな道具を駆使する手術みたいなものです。

──それでも、死は容赦ない。

自然界の生き物は、ケガか病気か事故か、食われて死ぬ。その最期の瞬間まで精いっぱい生きていることで輝いている。人間は「自分はどんな死に方をするのか」とか「死は怖い」とか考えるけど、今生きてることに関しては割とうつろじゃないですか。今を生きていないというか。ここで書いた蚊の死に方はあっけないし、残ったのはゴミ箱に放り込まれたティッシュの血痕とペシャンコに潰れた死骸。でもそこにこそ生命の尊厳があるのかな、って思う。

──シロアリの女王アリを待つ残酷な運命も、結構シビアでした。

シロアリは家屋の基礎部分に巣を作り、腐った木材を食糧にします。そこを食べ尽くしたら新たな巣へ移動するのですが、巨大な女王アリは自力では移動できず、働きアリに運んでもらわなければならない。