私が「非定型発達」も認めるべきだというのであれば、遅刻をしない努力も必要なのではと指摘すると、カツヤさんは「頑張ってできたら苦労してませんよ」と反論する。私が、では遅刻を減らすためにどんな支援があればいいかと尋ねると、上司からのモーニングコールだという。

同席していた編集者が思わず「それは難しいと思いますよ……」とつぶやいた。

以下、カツヤさんと私のやり取りを対話形式で再現したい。

藤田:発達障害の方の生きづらさについて書いた記事に、「遅刻やミスが多い発達障害の部下を持つほうの身にもなってほしい」という感想が寄せられたこともあります。

カツヤさん:上司になったことがないから、わかりません。それに、たしかに私は時間にルーズですが、例えば映画の待ち合わせとかで相手が遅れても怒ったりはしません。

藤田:プライベートと仕事は違います。仕事は、社員が定時に出勤するという前提で出来高を想定し、人員配置をしています。遅刻すればその分同僚にも負担がかかりますよね。

カツヤさん:……。なるほど、そういうことですか!

カツヤさんはそうつぶやくと、猛烈な勢いでメモを取り始めた。この間のやり取りを書き留めているようだ。もしかして今まで「遅刻をしてはいけない理由」がわからなかったというのか。私が尋ねると、カツヤさんが「はい」と即答した。

「そういう前後関係まで説明されて、初めて理解できました。遅刻は上司や同僚、お客様、いろんな人に迷惑をかける行為だということですね」

私にとって、そしておそらくカツヤさんにとっても、目からうろこが落ちた瞬間だった。2人とも、発達障害の人に対する現代社会の不寛容さを指摘してきた。ところが、非定型と定型が歩み寄るための具体的な方法については、まるで考えなしであったということだ。

なるほど――。たしかにカツヤさんは「欠勤はしない。自分の給料が減るし、誰かが休んだときその分の尻ぬぐいをさせられたことがあったから」とも言っていた。一見、自己中心的に見えるかもしれない。ただ因果関係さえはっきりすれば、カツヤさんなりの行動規範はあるのだ。

小中学校時代は「苦労した記憶しかない」

カツヤさんは東京都出身。小中学校時代の人間関係について「財布からお金を取られたり、制服をゴミ箱に捨てられたり。苦労した記憶しかない」と振り返る。当時より「大人になったら、どうなるのだろうという不安があった」という。

私立高校を卒業した後は、飲食関係の会社に就職したが、1年もたずに退職。その後はリゾートホテルやデリバリーヘルスの電話番、キャバクラのボーイ、パチンコ店、通信関係の会社などさまざまなところで働いたが、いずれも数カ月から1年ほどしか続かなかったという。正社員だったのは最初に勤めた会社だけで、その後は非正規雇用ばかり。月収はフルタイムで働いたとしても、手取り15万円ほどという水準だった。