カツヤさんの両親は、彼が一人暮らしをするアパートの家賃を肩代わりしてくれるなど関係は悪くはない。ただ発達障害に理解があるとはいえないという。とくに父親は、発達障害かもしれないから医療機関を受診したいと訴えたカツヤさんを「ただの甘え」と叱責。カツヤさんは借金については「親には絶対にバレないようにしている」と話す。

こうした経緯もあり、カツヤさんは一人暮らしを始めた5年ほど前に、親には内緒で初めて精神科を受診した。そこでようやくADHDとアスペルガー症候群と診断された。このときのことを「今までのつらかった出来事の原因がはっきりした。とてもすっきりした気持ちになりました」と振り返る。

1つ気になったのは、カツヤさんが「精神科に行ったその日に発達障害だと言われた」と話したことだ。本来、発達障害と診断するには、本人や家族と面談し、成育歴や家族の病歴などを詳しく聞き取る必要がある。少なくとも初日に診断を下すことなど不可能だ。

最近は生きづらさのあまり発達障害と診断されることを望む人も少なくない。こうした不安に付け込み、なかには“即日診断”をする医師もいると聞く。これは持論だが、このような倫理を欠いたやり方は悪質な“発達障害ビジネス”にほかならない。私がそう指摘すると、カツヤさんは「初日は疑いがあると言われただけです」と言い直した。

一方でカツヤさんは自身が受けた検査の種類や結果については「覚えていない」という。私が取材で出会った「大人の発達障害」と言われる人たちの多くは、検査結果などを基に自分が不得手な分野を認識し、「定型発達」が多数を占める社会で生きていくためにさまざまな試行錯誤をしていた。彼らにとって「発達障害と診断されること」は目的ではなく、過程であり、手段であった。

ただこれはカツヤさんの問題というよりは、やはり医師がなんらアドバイスをしていないということに問題の根深さがあるのではないか。

親が死んだら一緒に死ぬしかないのかな…

カツヤさんは編集部に取材を受けたいというメールを送った理由についてこう話した。

「仕事が長続きしないという、ほかの発達障害の方の記事を読んで『Ⅿe too』と思ったことが1番のきっかけです。あとは、私の波乱万丈な人生を知ってほしかった。デリヘリやキャバクラで働くなんて、誰もが経験できることではないと思うんですよ。借金の話もネタになるかなと。年を取ったらどうするのかって? そのときは35歳で亡くなったモーツァルトのように死ぬのかなって思ってます」

意気込んでそう話す一方で、こんな不安を漏らすこともあった。

「高校時代の友人が土地や家を買ったとか、子どもができたとかいう話を聞くと、29歳にもなって非正規の自分に負い目を感じます。(漫画『クレヨンしんちゃん』に登場する)野原ひろしみたいなのが勝ち組というのもどうかとは思うけど……。親が死んだら、一緒に死ぬしかないのかなと考えることもあります」

どちらもカツヤさんの本音だろう。天才・モーツァルトを目指すのか、平凡なサラリーマンの代名詞でもある「野原ひろし」を目指すのか。それはカツヤさんが決めるしかない。

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著者:藤田 和恵