絵を描く依頼が来たときに「自分が弱みやコンプレックスであると思っていたことは視点を変えれば強みになる」と感じたんです。そのときに「みんなの目になれた」と思いました。それで絵を描くことが好きになったのです。

そして、教室で多く目に入った建物をたくさん描くようになり、マンション広告も描き写していたところ、両親が「建築家という職業がある」と教えてくれました。

自分のあり方を決めるのは社会の決断

――英語版の“You decide.”というタイトルについてお聞かせください。

例えば、水着を着たらすぐにセクハラされるような社会では、自由に服装を選べません。トランスジェンダーの問題も同じで、私自身はなるべく自分らしくありたいと思っています。でも、それが可能になるのか否かは「社会」の側が決めることなんです。

自分を「オカマの建築家」と呼ぶのか、「トランスジェンダーの建築家」と呼ぶのか。それは女性のままで建築の仕事を続けていけるのかにも関わります。

サリー楓/さりーかえで 1993年生まれ。建築デザイン、ファッションモデル、ブランディング事業を行う傍ら、トランスジェンダーの当事者として LGBTQに関する講演会を行う。建築学科卒業後、国内外の建築事務所を経験し、現在は建築のデザインやコンサルティング、ブランディングからモデルまで、多岐にわたって活動。パンテーン CM「#PrideHair」起用や「AbemaTV」コメンテーターとしても出演 ©2021「息子のままで、女子になる」

――ゼミの教授である小林博人先生の「社会に出たらいろんなバウンダリー(境界線)があるが、それをつなげていく存在になりなさい」という言葉が印象的でした。

やはり、そうなりたいと思っています。メディアに出るようになって、より一層トランスジェンダーの人からの相談が増えるようになりました。

また、偶然なのですが、私のいる部署が「トランスバウンダリー(越境する)デザイン」というコンセプトを今年から掲げています。そのキャッチフレーズを見たときに小林先生の言葉を思い出しました。

建築には、耐久性のみならずSDGs(Sustainable Development Goals)の視点などが要求されるようになり、「社会においてどのような価値を発揮するのか」が求められるようになったんですね。

「建物」を作るだけでなく、「建物の新しい機能」を作ってみたい。「そんなことも建築家が手掛けるのか」と言われてみたいですね。

――最後に、LGBTQへの差別解消などを目指すLGBT法案の成立が(6月16日閉会の)国会で見送られました。どのように受け止めていますか。

LGBT法案は署名運動やPR動画の出演などで参加しており、今回の結果は残念に思います。新しい家族観が生まれつつある中で、 旧来の家族制度にイノベーションを起こせるかどうかが論点だったと考えています。

目下の課題はLGBT差別の禁止ですが、長期的には夫婦別姓や事実婚、SDGsの目標5(ジェンダー平等の実現)などを巡る議論と連帯していくことが可能だと思います。

著者:熊野 雅恵