自律神経失調症に特化した薬はありません。一般的にはそれぞれの症状を抑えたり緩和する薬が処方されます。めまいを抑える薬や、抗不安薬、睡眠導入剤などです。

現代の医学はEBM(Evidence Based Medicine)という考え方があり、私ももちろんその考え方を基本にしています。EBMに基づき、諸症状の緩和効果があると実証されている薬、というわけです。とはいえ私は、一般的な薬では自律神経失調症の症状が改善しない方を多く見てきました。

試行錯誤の末、私が今とっているのは食事療法、生活スタイルへの指導です。食べ物から派生した生薬・漢方などを処方することもあります。漢方薬はエビデンスが認められていないことも多く、大学でも漢方薬の授業はほとんどありませんでした。ただ私は多くの患者さんを診る中で、一般の薬を処方しても患者さんの改善が見られず、なんとかできないものかと思い、独学で学んできました。

実際の臨床の場では、こういったことをきちんと説明したうえで、納得された患者さんに処方しています。とはいえ、拒否感を示す方もいますので、無理強いすることは決してありません。

原因不明の体調不良を訴えてクリニックを訪れる患者さんに対し、私はできるだけ平易な言葉で今の状況を伝えるように心がけています。自律神経失調症という状態であることを伝え、交感神経と副交感神経の説明をし、気を付けることやすべきこと、してはいけないことを話します。

とはいえ、たいていの方は医師が言ったことをそれほど覚えていないのではないでしょうか。

「原始人の生活」が自律神経失調症には効く

自律神経失調症には、なにより「規則正しい生活」が効くのですが、「規則正しい生活」といっても、子どものころからそれこそ耳にタコができるほど聞いてきているので、右から左に流されてしまいます。

そこで私はこのごろ「原始人の生活をしてください」と伝えています。朝が来たら起きて、日の光を浴び、昼間は体を動かして、夕暮れには活動を終えて、暗くなったら早めに寝る生活をしましょう、ということです。

忙しい社会に生きている現代人にとっては、原始人の生活は容易ではありません。私自身、重々承知しています。ただその中でも、ちょっとした心がけでできることがあります。あれもやらなくては、これもやらなくては、と思う必要はありません。試してみようかな、という気楽な気持ちで始めてみてください。

何をおいても実践してほしいのが、体内時計のリズムを整えることです。体内時計の狂いを正す際に一番の近道となるのは、朝食をとることです。朝食を食べることで体内時計が動き始めるからです。不眠で悩む人には特にオススメします。

体内時計を働かせる時計遺伝子は全身に存在していますが、脳の視床下部にある時計遺伝子が「親時計」の役割を果たし、いつどういう働きをすべきか、各臓器内にある遺伝子(「子時計」)たちに信号を送っています。子時計もそれぞれにリズムを持っていて、動いたり休んだりしています。

時計遺伝子のこうした働きがわかってきたのは実は最近ですが、この遺伝子は私たちの健康全般に大きく関わっています。親時計(脳)と子時計(各臓器)が互いに連携して、正しいリズムを刻むことが健康につながります。ちなみに、2017年のノーベル賞生理学医学賞は、この体内時計に関する研究が受賞しています。

全身の時計遺伝子のリズムは、1日24.5時間に設定されているため(サーカディアンリズム・概日リズムといいます)、毎日30分前後のズレが生じます。このズレを修正してくれるのが、朝食と太陽の光です。定時に朝食を食べることが刺激となって、体内時計がリセットされるのです。