ストレスや不安によって、自律神経や内分泌機能が悪影響を受けます。そのような影響で狂ってしまうのが、睡眠のリズムです。これは説明するまでもないでしょうが、ストレスや不安が大きいときには、誰しも睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、熟眠困難、早朝覚醒、悪夢など)のような症状を呈します。

いわゆる不眠です。災害後に不眠を自覚した場合、なるべく早く対処することで、災害不調を長引かせず、軽減することができます。私は診察室で眠りに関する相談を受けることがよくありますが、「疲れているのに眠れない」と感じるときは、心身が発するSOSだと受け止めてください。

睡眠の質と量が保たれない状態が続くと、短期的な不調のみならず、心臓疾患や高血圧症、糖尿病などのリスクも高まります。また、肥満はさまざまな病気のもとになりますが、睡眠時間が平均7〜9時間の人に比べ、4時間以下の人の肥満率は73%も高いという調査結果もあります。すでに「不眠症」や「睡眠時無呼吸症候群」と診断されたことのある人は、心疾患などをより発症しやすくなります。

不眠が原因で、精神的な不調を来しやすいことも報告されています。その代表がうつ病、抑うつです。うつ病の人では、約9割に不眠の症状があるとされます。また寝付くまでの時間が長い人は、抑うつに約2倍なりやすい、睡眠時間が短いほど抑うつが生じやすくなる、という研究結果もあります。反対に言えば、もし健全な睡眠が得られ、それを維持することができれば、精神面・情緒面の問題を予防することにもつながるのです。

睡眠不足は安全にも影響します。夜によく眠れないことで日中に眠気が起こり、注意力が散漫になることでミスや事故を起こしやすくなるからです。睡眠時間が数時間短くなった状態が続くと、気づかぬうちに作業能力が落ちること、一度低下した作業能力は8時間睡眠を1週間続けても完全に回復しないことも最近の研究により報告されています。

よく眠ることで、気に病む事柄を少しでも減らせる

自宅が被災し、体育館などの一時避難所で生活しなければならないような場合には、物音や人の声、冷暖房の不備等により、睡眠に関係する問題がいっそう深刻化します。ですからよけいに、睡眠についての知識を持ち、対処法や自分なりの「安眠術」を身につけておくことはとても大切です。

人間の体は、眠っているあいだに脳と体を休ませ、成長ホルモンを分泌して体のメンテナンスをおこないます。このあいだに老廃物を除去することで、体は健やかな状態に保たれるのです。

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の研究によると、眠りはじめの約90分間に訪れる「ノンレム睡眠」という深い眠りが、睡眠の質を決めます。この約90分間に夜間の成長ホルモンの70〜80%が分泌されるからです。ところがノンレム睡眠が乱れると、その後何時間眠ってもいい睡眠にならない、という結果が出ています。

さらに眠っているときは脳に記憶の定着をおこなうと同時に、嫌な記憶の削除もおこなっています。よく眠ることで、気に病む事柄を少しでも減らしていけるでしょう。

最後に、睡眠導入剤についてもふれておきたいと思います。睡眠導入剤は依存性もあって体に悪いのではないか、だから飲まないほうがいいのではないか、と思っている人は依然多いようです。

しかし私は、一時的に使用するぶんにはほとんど問題がないと思っています。依存への不安も感じる必要はありません。体内時計のリズムがいったん崩れると、それ以降も崩れ放しになることが多くなります。ですから、まずは薬を服用してでも時計遺伝子のリズムを整えるほうが、不調にはずっと効果があるのです。

著者:工藤 孝文