にもかかわらず、マサヤさんの収入はここ数年で半減した。プロの努力や能力、技術が正当に評価されない。それが今の日本社会の現実でもある。

マサヤには「モヤッとすることがいくつかある」という。

ひとつは、激減したとはいえ年収では400万円近くになるため、低所得のひとり親世帯を対象にした手当や助成制度の多くが利用できないこと。もうひとつは、コロナ禍において飲食店経営者らには協力金が給付されるのに、自分たち会社員には貸し付け制度しか用意されていないことだ。

「どうしてうちは借金ばかりが増えていくのか」

マサヤさんは個人を責めるつもりはないと何度も前置きしたうえで、こう愚痴をこぼす。

「知り合いのシングルマザーは手当ても助成も目いっぱい使っていて、公営住宅で暮らしています。自由になるお金は絶対うちより多いはず。それから、子どもの同級生の親の中には小さな飲食店を経営している人がいるのですが、売り上げよりも協力金のほうが多いという店もあるそうです。『店を閉めているほうが儲かる』なんて話を耳にすると、どうしてうちは借金ばかりが増えていくのかと、やりきれない気持ちになります」

ついでにいうと、単身赴任中の親会社の役員らが家賃80万円ものマンションに住んでいるのを見てもやはりモヤッとする。「仕事柄、役員たちの自宅はわかります。あそこまで豪華な家に住む必要があるのかなと思ってしまいます。個人が悪いわけじゃないとわかっていますが、もう少し実態にあったお金の配分をしてほしい」。

では、マサヤさんはどうするべきだと考えているのだろうか。マサヤさんは「働き方改革による労働時間の上限規制の対象から、私たちのような残業代に依存する業種を外すべきです」と主張する。

働き方改革関連法では、高度な専門知識を持ち、一定水準以上の年収を得る労働者については労働時間規制の対象から除外する「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」が導入された。マサヤさんの仕事のように「残業代に依存する職種」も同様に対象から外すべきだ、というのだ。

しかし、適用除外を安易に増やすことは法律の趣旨を骨抜きにしかねない。実際、高プロ制度は「残業代ゼロ制度」「定額働かせ放題」とも言われ、長時間労働や過労死につながりかねないという批判がある。

私は、マサヤさんの収入が激減した原因は、働き方関連法というよりも、残業代に依存した給与体系そのものにあるのではないかと思う。つまり会社が抱える問題。もっというなら会社とそこで働く労働者の問題なのではないか。