行為を受け止める側としては、「そんなことして、どういうつもり?」と言いたくなるでしょうが、「どんなつもりもない」のです。認知症の段階にもよりますが、基本的に問題となる行動を起こしたという自覚すらないと思ってください。

なぜなら、その自覚のなさこそが、さまざまな感覚や理性を司る脳の部位を侵されてしまう、認知症の本質なのです。認知症の行動・心理症状(BPSD)は「周辺症状」とも呼び、中核症状がもととなって現れます。ただし、認知症の方のもともとの性格や現在の心理状態、環境によって出方はさまざま。「あっちのおじいちゃんはおとなしいのに、なんでうちの父は!」などと、ほかの方と比較しないことも大切です。

たとえば、認知症の症状の一つに、勝手に出かけてしまい、その挙句に行方不明になってしまう危険性もある「徘徊」というものがあります。介護をする方にとって、精神的にも体力的にもつらい症状ですね。

「外に出ちゃダメだって言っているのに!」「どこに行くの! ここがあなたの家なのに!」と、いくら説得してもらちがあきません。

しかし、徘徊を繰り返す認知症の方には、その方なりの理由があるのです。よくあるのは、記憶障害および見当識障害のため「今」ではなく「過去」に戻ってしまい、現在の住まいが人の家のように居心地悪く感じるケース。

「人の家にずっといたくない」「自分の家に帰りたい」、だから「この家を出ねば!」となるわけです。ご本人にとってはまっとうな理由ですが、周囲からすると、徘徊という行動になってしまいます。

「物取られ妄想」に悩む人の頭の中

「財布盗ったでしょう!」と怒りだす「物盗られ妄想」は認知症の初期に多く見られますが、この時期は認知症が進行していく不安に苛まれがちなとき。

「大事なものはなくさないようにしよう」と、財布をしまうまではよいものの、その後、記憶障害によって「いつ、どこに、何をしまったか」が、丸まる欠落してしまうのです。

それでも認知症の方の中には、「大事なものをなくしたくない」という強い思いは残っているので、欠落した記憶を補完するために、「誰かが盗んだに違いない!」と結論付けるのです。

そして、その「誰か」は最も親しい人、甘えても大丈夫な人……つまり、いちばん面倒をみている家人になってしまうことがほとんど。つらいですね。

このように、すべての困った行動は認知症がさせていること。「違うでしょ」「やめてよ!」「反省して!」と叫んでも、こられの行動が少なくなることは期待できないうえ、関係性が悪化するだけなのです。

著者:吉田 勝明