現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

今回紹介するのは「30代半ばで発達障害とわかり、現在は障害者雇用で工場勤務を8年以上しています」と編集部にメールをくれた、50歳の男性だ。

なぜ発達障害の人たちを取り上げるのか?

「発達障害者の愚痴を聞くことが、連載のテーマではなかったはずでは?」

最近、ある読者から本連載に対してこんな感想が寄せられた。読者は、発達障害をがある人の登場が続いていると指摘。決して批判というわけではなく、経済的にもっと大変な人はいくらでもいるのではないか、という疑問を投げかけていた。

また個人的な話になるが、つい先日、私の知人から発達障害の部下との付き合いに悩んでいるという話を聞いた。顧客の個人情報やお金が絡んだ仕事でミスを連発。私生活でも金銭管理ができず、消費者金融に借金があるようで、職場にも督促の電話がかかってくるようになったという。注意をしても、自身の都合や主張を繰り返すばかりで、反省しているようにみえない。知人はそういって途方に暮れていた。

たしかにこの読者の指摘には一理ある。加えて私の知人のように発達障害の部下や上司を持ったことで苦労をしている定型発達の人(発達障害ではない人)が一定程度いることも事実だろう。ただ発達障害が原因で貧困状態に陥った人たちが少なくないこともまた事実なのだ。

今回、話を聞いたのも、30代後半になって発達障害の1つ自閉症スペクトラム(ASD)と診断されたヒサオさん(仮名、50歳)だ。これまで40回近い転職を繰り返してきたという。ヒサオさんは取材を受けた理由についてこう語った。

「私たちの生きづらさをわかってほしい。一生懸命頑張っても報われない。こういう人間もいるんだということを、世の中に知ってほしい。1人でも、2人でも、発達障害に対する理解者を増やしたいんです」

小学校中学年になるまで、学校では一言も言葉を発したことがない変わった子どもだったという。家庭科の調理実習では、にぎやかに話をしながら鍋や包丁を持つクラスメートたちの輪の外で、何もしないまま、ただ立ち尽くしている間に授業が終わっていた。

高学年になると、少しずつしゃべるようにはなったものの、次に待っていたのはいじめ。プロレス技をかけられたり、体操着を脱がされたり、弁当を奪われたり、新品のシャープペンを勝手に分解されたり。中学時代、女子生徒から「気持ち悪い」「来んな」と面と向かって言われ、ひどく傷ついたことを覚えている。勉強もスポーツもできるクラスメートから、制服の背中にチョークで「AIDS」(エイズ)と書かれるなど偏見に基づいたいじめを受けたこともあったという。

「エプロンのひもを後ろで結べない。剣道の防具を着けられない。不器用な子どもでもありました」